拍手ありがとうございました
ささやかながら、少女騎士のこねたおいときます。
メタ要素たっぷりのおふざけ注意。
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「どう考えてもおかしい」
 ガレスである。
「確かに、どう考えてもおかしいですね――あなたがここにいるのは」
 そして、クラヴィスの家の食卓である。
 ガレスは椅子の肘掛にだらしなく体重をあずけ、食卓に招かれた客としては最大級に無礼かつ不遜な形に足を組み、低い位置から獣のような目でクラヴィスを睨みつけた。
 クラヴィスはその視線を器用に避けながら、パンを千切ってもそもそと口に運ぶ。
「冒頭を読み返してみろ。あれはどう考えても俺と結婚するのが当然の流れだろう」
「冒頭で堂々と“恋愛感情ではなく尊敬だ”と言ってるじゃないですか」
「あれはその場しのぎだろう! いいか、よく考えてみろクラヴィス。俺は背が高くて、力が強くて、金も持っていて、女にもてる国の英雄だぞ! それに比べておまえはどうだ! ひょろ長くて慇懃で自己卑下と自己防衛にばかり走る嘘つきだ!! おまけに美形でもない! いいかよく読み返せ、一度でもおまえの容姿を整った、だとか美しい、だとか表現した一文があったか!? おまえを表現する言葉は眠たげ、寝ているか起きているかわからない、気の抜けた、間抜け面だ! ジュダスの方がはるかに優遇されていたぞ!」
「私は顔で売ってるわけじゃないからいいんですよ。健気で不憫で報われなくて幸薄そうで退廃的な雰囲気が持ち味なんです」
「黙れこの糸目野郎が! 喋るときはちゃんと目を覚ませ!」
「伏目がちなだけです失礼な! あなただって隊長の処女持ってったんですから贅沢言わないで下さい。おまけに私との関係を疑って乱暴に扱うなんて……そりゃ誰だってふられますよ」
「振られてなどおらんわ! 保留だ! 忍んで行く許可は得ている!!」
「十年の後に私がまかり間違って〈第三の疾剣〉をつぐことになったときのキープとしてですけどね」
 しれっと答えたクラヴィスに、ガレスは手元のナイフを思いきり投げ付ける。
 すんでの所で避けたナイフは深々と壁に付き刺さり、クラヴィスは呆れたようにナイフとガレスを見比べた。
「私を殺したら隊長がブチ切れますよ」
「別の人間の仕業に仕立て上げればいい」
「サー・ジュダスと同じまねしてどうするんですか……」
「俺が妻にするはずだったのに……! そもそもお前が余計な手を出さなければ、俺は今頃シエラをドレスで着飾って、ダンスを教えて、うっかり倒れたのを助け起こしたりして、偶然キスしたりして、それでそのうち誤解がとけて、わだかまりが消えて、俺とシエラでハッピーエンドだったんだ。それでおまえは一歩下がって、俺とシエラの幸福を寂しげに見送ると――全ての物語の王道がそう言っている!」
「今回の王道は『本当に愛していたのは身近な彼だった』路線ですから」
「そんな王道は認めない!」
「サー・ガレス。失礼ですが、ニワトリ頭って言われる理由わかってます……?」
「なんだと貴様ぁ!!」
「わー、わー! 暴力反対!」
 ガレスがついにテーブルに乗り上がって掴みかかるとクラヴィスが悲鳴を上げ、と同時にあってないようなノックの後にシエラはひょいと食堂に現れた。
 食卓に乗ってクラヴィスの胸倉を掴んでいるガレスを見て目を見開き、情けない顔でもがいているクラヴィスに視線を移して顔を顰める。
「サー・ガレス。品がありません。クラヴィス。情けないぞ」
「し――シエラ!?」
「ちょ、ちょっと待ってください隊長!」
「レディ・ヴァルディオンのお誘いを断ってきたのですが。考え直すことにいたします。後はお二人で馬鹿騒ぎを続けられよ」
 そして、一瞬前に開いた扉が虚しく閉じる。
 ガレスとクラヴィスは一瞬視線を交わし、心底脱力して頭を抱えた。
「……ワイン、出しましょうか?」
「ありがたいが……俺は酒が飲めん」
「では紅茶を」
「頼もう」
 そうして、二人の夜はふけていった。







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