リベンジ 「おい、見ろよ」 「あん?」 「ほら、あそこだよ」 ブレダがそう言いながら指差した方向には、ハボックのよく知る人物が、 遠目でも美人だと認識できる女性と食事をしている姿があった。 「また違う女だな」 「だな」 「いや~モテるねぇ、我らがマスタング少佐は」 「何であんなにモテるんだろうな?顔か?」 他の軍人達と同様に、士官専用食堂で昼食を取っていたブレダとハボックは、 既に見慣れた光景となったその姿に、多少の嫉妬はあるものの、どちらかといえば呆れていた。 何しろ、節操がないと言われても否定は出来ない頻度で、この光景に遭遇するのだから。 その、彼らがよく知るその人物の名は、ロイ・マスタングという。 23歳という若さにして少佐位に就いており、また、 ブレダとハボックと同じ司令室で働く上官でもある。 そんな彼に対し、遠慮のないモテ分析をするのが、彼らの定番と成りつつあった。 「期待の出世頭だからか?」 「親父さんが中将で本人は若くして少佐。おまけに国家錬金術師ときたらそうかもな」 「頭も良いし話題も豊富ってか」 「フェミニストだしな」 「ちょっと身長は物足りないが、そこは許容範囲なんだろうな。きっと」 「だな」 「それにしても、毎回違う女性と食事してるってのはどうなんだ?」 「不誠実だな」 「全くだ。俺なら一人の女性に全身全霊をかけるっていうのに」 「お前の場合はそのせいで女に振られるんだろう」 「そんなことないぞ!」 「そんな事あるだろう。何回同じ理由で振られたと思ってるんだ。お前?」 「うっ・・・」 「ハボの場合は感情が激しすぎて相手が重く感じるんだ。 そうかと思えば事件が解決するまで音信不通になったりする。 これじゃバランスが悪くて相手はお前に付き合っていられなくなるのも当然だろうが。 大事にされてるんだかそうじゃないのか判断できないからな。違うか?」 本人は激しく否定するだろうが、ハボックの女運の悪さは筋金入りである。 また、自身の失態が更に輪をかけて女運の悪さを助長しており、その事は本人も薄々自覚はしているのだ。 それを第三者であるブレダに理路整然と告げられ、ハボックはグウの音も出ない。 だが、それでも腹は立つ。 いや、寧ろ本当のことだからこそ余計に腹が立つ。 「なんだよ、偉そうに言うけど、お前はそれ以前に彼女が出来たためしがないじゃないかっ!」 「そんなわけあるか。俺だって彼女ぐらいいたことある」 「いつの話だそりゃ?俺は知らないぞ」 「何でお前に報告しなきゃならないんだよ」 「俺はいつもお前に報告してるじゃないか」 「それはお前が勝手に喋ってるだけで、俺がそれに合わせる必要は無いだろう?」 「狡いぞ、ブレダ!自分だけこそこそ彼女を作るなんてっ」 「別にコソコソなんてしてないぞ。ハボに言わなかっただけだ」 「だから―、」 「面白そうな話をしているじゃないか。私も参加して良いか?」 激昂したハボックが、更に言葉を紡ごうとした時だった。 二人の頭上から、多分に笑いを含んだ声が掛けられたのは。 同時に、自分達が如何に大きな声で恥ずかしい口論をしていたのかに気づいた。 正気に返って、ピタッと口を噤んだハボックとブレダが、恐る恐る視線を上げて周囲を見渡すと、 彼らが座るテーブルのすぐ横に立って笑っているロイ・マスタング少佐がいた。 そして、ロイの隣には、先程までロイと一緒に食事していたと思われる美人が一人。 更に、立ち上がってまで見ているわけではないが、聞き耳を立て、 二人の会話に興味津々といった様子の軍人達が多数。 なんという大失態! マスタング少佐のモテ理由を冗談交じりに揶揄していたはずなのに、 いつの間にか衆人環視の中、自分達の恋愛事情を暴露してしまっていたとは・・・・。 恥ずかしさの余り、二人は顔を火照らせる。 「二人共、彼女が欲しいなら紹介するぞ?」 居た堪れない羞恥を感じているブレダとハボックに、 追い討ちをかけるかのようなロイの一言が突き刺さる。 「「結構です!!」」 普段なら喜んで飛びつく提案だが、この状況でお願いしますなんて言えるわけがない。 なんて人が悪いんだ! 絶対に楽しんでる。 ポーカーフェイスを気取っているが、そのピクピクと動いている口元でわかる。 笑いを堪えながら自分達をからかっているのだ。 どうせ俺たちは少佐みたいにモテないですよ! 悪いですかっ! 声に出して叫べば、更に恥をかくとわかっている二人は、心の中で反撃していた。 その思いは正直に表情に現れていたのだろう。 笑いを堪えていたはずのロイが、とうとう耐え切れずに爆笑したのだ。 本当にムカつく!!! 「ロイ、そんなに笑っては失礼よ」 「だって、マリー。これが笑わずにいられるかい?」 「ロイ」 「分かったよ。もう笑わない。これで良いかい?」 「ええ」 「悪かったな、二人共」 本気で悪いとは思ってなさそうな口調で謝るロイに、ブレダとハボックは不承不承頷く。 が! 謝られるのも情けないではないか! これでは、モテない自分達を肯定してしまった事になってしまう! そんな二人の葛藤に目もくれず、ロイ達の会話は進んでいた。 酷すぎる。 「それじゃ、私はお先に失礼するわね」 「ああ。また一緒に食事しよう」 「そうね。出来れば次は職場ではなく街でご一緒したいわ」 「考えとく」 ロイの返答に肩をすくめながら立ち去るマリー(と、ロイが呼んでいた)は、 なんとも颯爽としていて素敵だった。 恐らく、ロイが本気ではないと分かっているのだろう。 あんな美人を袖にするなんてなんて贅沢なんだ! 益々腹が立つ。 大体、最近のマスタング少佐は可愛気がない。 初めて会った頃は初々しくて可愛かったのに、付き合いが長くなるにつれてどんどん印象は悪くなっている。 一体全体どうした事だ。 何が少佐を変貌させているんだ? それとも、こっちの顔が本来の性格なのだろうか? そうだとしたら嫌過ぎる・・・・。 唯でさえ、彼らの司令室には困った上官がゴロゴロといるのに・・・・。 ため息を吐きつつ、周囲の興味も薄れてきたのか、感じる視線が少なくなった所で、 ブレダとハボックは、この場を去ろうと席を立った。 暫くこの食堂には顔を出せない。いや、出したくない・・・・。 幸い、食堂は此処だけでなく他にもある。 何の慰めにもならないが、無いよりはマシである・・・。 帰る場所が同じ三人は、無言のまま通路を進む。 憮然としたままの表情のブレダとハボックに対し、 マリーに嗜められた後も薄らと笑ったままのロイが憎い。 いつか仕返しをしてやらなくては気が済まない。 だが、どうやったらこの上官をギャフンと言わせることが出来るのだろうか? 其々の思惑を胸に秘めつつ歩いていたところ、前方から彼らの上官がやってきた。 「おーい。ロイ、ハボック、ブレダ。何しけた顔して歩いてるんだ?」 「「「エルリック少将」」」 エドワード・エルリック少将。 若干三十歳にして少将位を得ている規格外の天才である。 そして、ロイ達三人の上官でもある。 「お疲れさん。飯食ったか?」 「はい。お先に頂いてきました」 と、ロイが神妙に答える。 すると、 「ホントだよ。俺だって腹減って死にそうだったのに、ホークアイ中尉が行かせてくれないんだもんな」 と、エドワードが不平をこぼす。 すると、 「それは、少将が書類を溜め込んだからじゃないすか」 と、ハボックがズバッと指摘する。 すると、 「俺が悪いんじゃないぞ!書類が悪いんだ。だって詰まらないんだからっ」 と、更にエドワードが子供じみた言い訳をする。 すると、 「書類仕事が詰まらないのは今に始まったことじゃ無いですよ。 貯めなきゃそこまで面倒臭くないんですから、毎日ちゃんと処理して下さいよ」 と、ブレダの遠慮ない激が飛んだ。 すると、 「何だよ、二人共冷たいじゃないか!俺の味方になってくれないのかよっ」 「ホークアイ中尉を挟んで将軍の味方になって得した事無いすから嫌です」 「将軍の味方になったら俺達の命が危ないので嫌です」 上官を上官とも思わないハボックとブレダの言動は、いっそ見事なくらい冷徹だった。 今までに余程痛い目に合ってきたのだろう。 付き合いの長さが二人から遠慮という言葉を奪っていた。 そんな冷たい二人に耐え切れず、エドワードはロイに助けを求める。 「ロイ!お前は俺の味方だよな!」 「いや、あの・・・」 「何だよ!はっきり言えよ、ロイ!」 「うっ・・そのですね・・・」 将軍に詰め寄られ、しどろもどろになるロイの姿を見ていたブレダとハボックは閃いた。 前々から分かっていたことだが、マスタング少佐は、どうもエルリック少将を前にすると緊張するのか、 子供のようになってしまい、逆らうことも出来ず、口で勝てた試しも無い。 極稀に反抗しても、直ぐに返り討ちに合い、こてんぱんに打ちのめされている。 ニヤリ。 以心伝心とでもいうのだろうか。 同時に振り向き、お互いに目を合わせたブレダとハボックは、 ロイに仕返しをするべく計画を練り始めることにした。 勿論、それには、エルリック少将の存在がキーポイントになるのだ。 将軍の前では別人のようになるロイ・マスタング少佐。 わかり易すぎる弱点を晒した彼に、逃げ道は無いようだった。 END 7ヶ月ぶりの更新です・・・・。 それなのに、殆どエドは出てこず、何やら猿回しのような役割に;;; おまけに、ロイが原作設定っぽい性格になってるのは何故だろう? ・・・・設定が雑過ぎる! こんな駄文で本当に申し訳ありませんっ(土下座) 放置期間が長すぎて書き方完全に忘れてますよ、私;;; 次は、もう少し早く何かをUPしたいと思ってますが、 狼ババァの私のことです。 誰も信用して下さらないでしょう。 てか、私が一番自分を信用出来ないのですが;;; とにもかくにも、先ずは一つUPしました。 少しでも楽しんで頂けたなら幸いです☆ りお拝 |
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