どうしよう。すごく、嬉しいってば。




いつものように部屋主の意向や都合など考慮にいれないカカシがこの部屋を訪れた。
いつものように窓からで、くたびれた様子でベッドサイドに座りこむ。
だからいつものように濡れタオルを持って足を拭い始めればとカカシは「ありがとネ」と力なく笑った。


「カカシ先生!ここは土足厳禁だし、そもそもそこは入口じゃないって何回言えば」
「今日はホント、疲れちゃってねぇ」
「ふーん、お疲れ様ってば」
「明日、シャワー借りてもいい?」
「……? 今からでもいいってばよ……、って」
ナルトが目だけを向ければゆらゆらと頼りなく銀色の髪が揺れているのが見えた。
そして。
そうして。
カカシがそのままベッドに背を預け目を閉じたのが分かった。
え、と心の中で声を漏らして、暫く様子を窺っていると


(寝た……!カカシ先生がオレんちでオレが起きてるときに寝た…!!!)


すぐにその寝顔を確認したいのを我慢してうずうずと時間が経つのを待つ。
3分経っても、カカシの寝息が乱れないのを確認して音を立てぬよう、そろそろとナルトが視線を上げる。
「わあ……、本当に寝てるってば。明日は雨?雪?それともえーっと、槍だってば?」
普段は吊り上げられっぱなしの眉毛も今は少し下がり気味で、時折垣間見えた鋭い眼光は今は閉じられている。
さらに毒ばかり吐く唇は呼吸のためにだけ僅か開いている。
しばらくはその珍しいカカシを眺めていたナルトだが、次第に自分の顔が緩んでくるのを感じた。
「……やばいってば、ちょっと今……嬉しいってばよ?」
カカシにしては無防備過ぎるその様に、気を許されているのだということが嬉しくて、緩む口元に両手を当ててニシシと笑う。
しかも元が元だけに、気を抜いたカカシは普段との差が激しく、て安心しきったその寝顔は思ったよりも若く見える。
それがまたナルトの嬉しさを助長する。
音を立てぬよう、カカシを起こさぬよう細心の注意を払いながらカカシの寝顔を覗き込む。
睫毛が長いとか、鼻が高いとか、唇が薄いとか、色が白いなあ、とか。 普段なら絶対に見れない細部を観察していると、カカシの瞼がぴくりと震えた。
目覚めの前触れを思わせたそれだが、カカシは起きることなく小さな呻きだけ漏らした。
ぴくぴくと僅かばかり跳ねる指先が、愛おしい。
「夢を見ているってば……?」
ナルトの声に、カカシが薄目を開けた。
「あ……、ごめんってば」
まだ夢の中に居るようなカカシの焦点の合わない瞳にナルトが謝ると、ふ、とカカシが口元を緩めていつも見せるあの自信に満ち溢れた笑みではなくて。
子供が笑うような笑みを浮かべて。

「ナぁルト……」

少し掠れた声音でナルトの名を呼んで、子供が親に抱っこをせがむように腕を伸ばしてきて。
「!!!」
そのまま頭だけカカシの肩に乗せるよう引き寄せられて、ナルトはベッドに引き寄せられた。
「……お前も寝ておきなさい……ね」
カカシと向き合う方向に、額だけカカシの方に押し付ける姿勢はとても辛い体勢だ。
だが。
「………うんってば」
あまりにカカシが幸せそうな声を出すから。
(どうしよう。なんかすごく、嬉しいってば。)
熱くなった頬をカカシに摺り寄せて、目を閉じた。


---------

俺様は常に窓から侵入。
きっと玄関から入るとなったら彼は緊張しすぎて倒れるかもしれないです。




お名前
メッセージ
あと1000文字。お名前は未記入可。