ありがとうございました!

以下はお礼SS。
太公望のはなし




Don't look back in anger.


いつものように彼が桃の木の上で昼寝をしていた、ある日の午後。

「おひさしぶりねん、太公望ちゃん」

「?!」

いきなり下から例のあの声がして、伏羲は危うく地面に墜落するところだった。

「ど、どーしたのだ、おぬし」
「たまには、アフタヌーンティーのついでに昔話もいいかしらん、と思ってねん」
「・・グレート・マザーがアフタヌーンティーとはのう」
「子育てもなかなか大変なのん」

「ふぅ・・まぁ、良いか。おぬしの行動に説明を求めるだけ無駄というものだ」
「わかってるじゃない。さすがだわん、太公望ちゃん」

現れた妲己の姿はどこか白っぽくかすんでいた。おそらくは、魂魄体のようなものなのだろう。

「お茶にしましょ。降りてらしてん」

言われるままに伏羲が桃の木を降りると、どこから取り出したのか、
地面にはテーブル、イス2脚に、豪勢なティーセットと、数種類のケーキが飾られていた。

「お砂糖とミルクはいるかしらん?ケーキはどれになさるのん?」
差し出された紅茶に山ほどの砂糖と溢れんばかりのミルクを入れ、桃のコンポートタルトを取り分ける。

「・・で、何を話すのだ」
「そうねん・・たとえばわらわがたった今、太公望ちゃんのティーカップに青酸カリを仕込んだ、なんて話はどうかしらん」

「・・つまらんの」
「あらん?でも、昔の貴方だったら、とても面白がった話じゃないん?」
そういいながら、妲己は自分の紅茶にスライスしたレモンを軽く絞った。

「おぬしが何をしようと、今のわしにはどうでもよいことだからのう」
「許してくれたのかしらん?」
妖艶な笑みが、口元に浮かぶ。

「そういう話ではない。・・薄れたのだ」

怒りも、懐かしさも、哀れみも、憎しみも、畏れも。

全ての色が入り混じり、黒、闇へ変わった。
今となっては闇が何から出来ているのか、元をたどることもできない。

「そう」
笑みの形を変えずに、彼女は言う。
「わらわも、貴方のことなんて本当はどうだっていいのよん」

「・・ではなぜ、わしを生かした」

「あらん?わらわがヨケーなことしたって言うのん?ひどいわぁん」
少しテンションを上げて、彼女が悲しがって見せる。

「・・そうではないが」

「でっしょぉん?」
彼女の大きな眼が楽しそうに笑う。
「わらわがいなかったら、あなたは本当にひとりぼっちじゃないん」

ミルクティーをすすり、彼は眼を閉じた。
「違うな」

伏目がちに彼が眼を開く。
「独りなのは、おぬしであろう」

笑っていた瞳が、きょとん、と見開かれた。
「・・そうねん」

またすぐ、いつものあの笑みが浮かぶ。
「ママは貴方が、いとおしくてならないのよん」

伏羲は自分の闇の中にまた違う色が混ざったような気がした。
もう今、目の前に居る存在を純粋に憎むことも、怒ることも、できないだろう。

彼が紅茶を飲み干すと、妲己はティーセットもろとも姿を消し、また桃の木だけがのこった。

「・・まだケーキを食っておらんというに」

とりあえず彼は、桃の木の根元で夢に浸ることにした。


Don't look back in anger...END


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