※1.私、以前忠告しましたよね?の続きです。 1話目は小説ページに移動しました。 ばしんっと耳の奥で何かが弾けるような音がした。 「っいきなり何すんだよ!?」 何が起きたのかわからなくて、俺はずきずきと痛みだす、左頬を生身の左手で押さえた。 指先を何となく見たら、微かだけど血がついていた。 殴られた。 初めての出来事に、俺は正直パニック状態だ。 だって、今まで大佐が。 …ロイが俺に暴力を振るったことなんて、一度もなかったから。 俺が大佐のいる執務室に着いたのは本当に今さっき。 たぶん、入室して一分も経っていない。 月二回の司令部への帰還を約束している俺は、今日、一回目の報告のために中央指令部に訪れた。 図書館で借りてきた本を読みたいと言うアルを一人宿に残して、珍しく単身で軍部へ。 普段通り、軍の門を潜って、誰に咎められることもなく中に入って、何人かの軍人とすれ違ってたどり着いた執務室。 ノックをすれば、いつも返答するはずのホークアイ中尉ではなく、執務室の主、直々の入室許可が下った。 普通に扉を開けて、普通に歩いて。 トランクを片手に執務机まで一直線。 「おかえり」っていう、いつもの言葉がなくて、徐に立ち上がった大佐が無言のまま俺の前に立った。 それからすぐに“それ”は起こったんだ。 口の中が切れてる。 口内に広がる、鉄臭い味。 広がっていく地味な痛み。 でも、それ以上に痛いのは、心。 言葉で責められる事はあっても、それは俺の心配をしてくれているからで。 嫌味をいう事だってたくさんあったけど、それは何事もなく旅を続けられている事に安心している証拠で。 無言で叩かれたのなんて、本当に予想外だ。 「何をするんだ、だと? 本当に君は、何故私がこんな事をしたのか、わかっていないのかね?」 「当たり前だ!今回は旅も順調だったし、あんたの迷惑になるような失態してない。」 怒られる要素なんて、何もないはずだ。 俺は胸を張って、何で怒られなければいけないんだ、という態度で答える。 「では、これは何?」 深く息を吸って、ぴたりと呼吸を止めた大佐は、すごく冷たい目をしたまま俺に右手を伸ばした。 手が向かったのは俺の左脇腹。 指が服に当たったと同時に、すごい力で掴んできた。 「あっ、つぅ!」 俺は思わず苦痛の声を漏らした。 あまりの痛みに、脂汗が浮かんでくる。 そんな俺の痛がる姿なんて興味なさそうに、大佐は左脇腹を掴む手の力を強めた。 「何もないはずなのに、どうした、鋼の。 ん?この間ここに来たときは平気そうに動いていたのにね。」 薄っぺらい、張り付けたような笑い。 肌がざわっと粟立っていく。 きっと掴まれた脇腹の痛みと、不吉な予感のせいだ。 (何で、こいつこの傷の事知ってるんだよ!?) 掴まれた脇腹が痛む理由。 知らない間に傷が付いていました、と言い逃れできないレベルのこれは、四日前に出来たものだ。 |
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