期間限定御礼SSS ; 親子ネタ de 沖田誕生日編


「おとぉさん!」

子供特有の甲高い声に呼ばれて、沖田は振り向いた。沖田と目が合い、満面の笑顔で三歳くらいの幼児がとたとたと走り寄ってくる。
「?」
沖田は微かに眉を寄せた。自分のことを『お父さん』と呼び、顔を見てもこの反応なら確かに自分の子供だろう。だがその顔に見覚えがない。しかもその子供はピンク色の花柄の着物を着ていた――――女の子だ。沖田には息子は一人いるが娘はいない。そして屯所的にもこの存在はあり得ない。更にあり得ないことに、その子の面影はとある人物に酷似していた。
少し癖のある漆黒の髪に、灰色の双眸は眦が吊り上がり気味で、肌の色は白く、輪郭は年上の恋人と瓜二つ。
浮気かアノヤローと咄嗟に魔王モードに入り掛ける。が、『お父さん』と呼ばれたことに思い至って寸手でとどまった。だが眉間の皺はとれず、少し硬い口調で目の前の女の子に問い質す。
「お前、誰でィ?」
「……?」
「誰かって訊いてるだろィ」
「……おとぉさん?」
最初はきょとん、としていたが、沖田の硬質な態度にうりゅ、と吊り目がちだがつぶらな瞳にみるみる大粒の涙が盛り上がる。うっ、と沖田が怯んだ次の瞬間、女の子はうわあああと声を上げて泣き出した。男の子が泣くのは十悟で慣れているが、女の子に泣かれるのには全く慣れていない沖田は内心軽い恐慌状態に陥る。しかも相手は土方似だ、沖田も泣きたくなってきた。しかし自分まで泣いたからと言ってこの事態が収まる訳でもない。女の子は泣き続けながらも沖田に両手を伸ばして抱っこをせがんできたので、反射的に抱き上げる。
「悪かった。俺が悪かったから、泣きやみな」
普段は十悟相手でも非を認めない沖田だが、とにかく泣き止ませるのが先と声を和らげて宥めにかかる。自分の身体ごと女の子の身体を揺らしながら背中を軽く叩いたりしている内に、腕の中の女の子はひっくひっくとしゃくりあげながらも大分落ち着き始め、沖田はこっそりと安堵の溜め息をついた。
そこへ、非番らしき着流し姿の土方が通り掛かる。まず視線だけで女の子を見、次いで沖田に転じて呆れたような色を浮かべた。
「何十胡を泣かせてんだ、お前」
「とうこ……?」
「ほら、十胡、泣くな。目が溶けるぞ」
首を傾げる沖田に構わずに二人の傍へ寄ってきた土方が懐からガーゼのハンカチを取り出して十胡と呼んだ女の子の涙で濡れた目許と頬を拭ってやり、自分によく似た少しクセのある黒髪を撫でる。その手付きが十悟にしてやるそれにそっくりで、ああこの子は本当に土方の子供なんだな、と沖田は妙に納得した。
土方は顔を覗き込むようにして十胡と目線を合わせ、彼にしては優しい声音で話し掛ける。
「総悟に言うことがあったんだろ?」
ぐすぐすと鼻をすすりながらも十胡がこくん、と頷く。言うこと?、と再度首を傾げた沖田の顔をまだ濡れたままの赤い瞳で見上げて十胡が
「おとぉさん」
と沖田を呼んだ。そう呼ばれることに違和感はあったが、とりあえず応じるように視線を合わせると、十胡はちょっともじもじしながら鈴の音のような可愛らしい声で言った。
「おたんじょーび、おめでと」
「…っ」
至近距離からのそれは、心臓を撃ち抜きそうな程の威力があった。それをモロにくらってしまった沖田は言葉が出なかったが、少し不安そうに彼からのリアクションを待っている十胡に気付いて慌てて口を動かした。
「あ、ありがとう」
常の彼らしくなくどもってしまったが、十胡は心の底から嬉しそうに笑った。その笑顔も凶悪な程に可愛らしかった。


「…………夢オチかィ…………」
布団の中から見慣れた自室の天井を見上げて、アイマスク片手に沖田はハーッ、と大きな溜め息をついた。幸せな気持ちで目覚めることが出来たのでいい夢だったとは思うが、起き抜けからもう既に疲れている。悪夢ではなくても夢を見て疲れることはあるんだな、と妙に感心してしまった。しかし、何時までもこうして布団に懐いている訳にもいかない。夢の中の十胡が祝ってくれたように、本日は沖田の誕生日だからその内近藤や隊士達がやってくるだろう。
とりあえず顔でも洗おうと自室を出る為に襖を開いたところで、廊下の端から声を掛けられた。
「おとぉさん!」
夢とは違い、聞き慣れた声に何だかほっとしてしまう。とたとたと軽い足音を立てながら、十悟が夜着の上から沖田の膝に抱き着いた。
「おたんじょーび、おめでとう!」
――――沖田は自分の子供がこの子でよかったと思った。それに、夢の中の娘も恐ろしく可愛かったが、あれはとてもではないが嫁にはやれない。
自分に似た薄茶色の髪をわしわしと撫でると、十悟が沖田を見上げて笑った。その笑顔は夢の中の十胡のそれと同じだった。


 end.
100のお題外


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