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兄弟喧嘩/稜と劉


「だからいつも早めに勉強しとけって言ってるだろ!」
「そんなこと言ったって、わかんねーんだからしょーがねーじゃんっ」

リビングのソファに座りながら、俺と兄者・・喧嘩中。
原因はくだらないもので、俺が毎度のことテスト前に兄者に泣きついたことから始まった。

兄者はテストの一週間前以上からコツコツと勉強する派。
俺はテスト一週間前を切ってもだらだらしてる派。
そんで毎回テストの前日になっては、兄者に山をはってもらって必死の徹夜勉強。

たしかに兄者には毎回メーワクかけて、悪いとは思ってる。
でも俺もつい売り言葉に買い言葉で、とうとう堪忍袋の緒が切れた兄者に怒られたところ、言い返してしまって・・現在に至る。

「僕は稜の家庭教師じゃないんだよ?毎回毎回前日になって泣きついてきて、僕だって早く寝たいのに」

兄者の言うことはごもっともすぎて、そろそろ俺の返す言葉もなくなってきた。

「そーかもだけど、兄弟なんだしもっと助けあいっつーか・・優しくしてくれたっていーじゃんかよ」

我ながら、ちんぷんかんぷんなことをいっていると思う。
兄者はこんなアホな俺にもなんやかんやいって優しいし、良くしてくれる。
これ以上兄者にどうしろといったところで、それは完全に俺が求めすぎなのはわかってた。
その気まずさから、俺は自然と兄者から視線を逸らしていた。

「・・・そう、」

一言、兄者は呟くように言った。
え・・・・なにが、そう・・?

「兄者・・?」

てっきりまた勢いよく言葉が返ってくると思っていた俺はなんだか拍子抜けで、思わず兄者の方を振り返っていた。
そこには、無表情な兄者の顔。
・・・・こ、こわい。

「も、もっとなんか言い返してきていーんだぜ?」

いつになく黒いオーラを纏った兄者にビビった俺は、わけのわからない挑発をおくっていた。

「・・・・・。」

そんな挑発にものることなく、まるで俺が目の前にいないような知らん顔でカップに入っているコーヒーをすする兄者。

や、やばい。
これは本格的に兄者を怒らせてしまった。
しかも、今回は全面的に俺が悪い。
こうなると今までの経験上、なかなか兄者は折れてくれない。
どうしよう!?

「なーなー、兄者ってばー」

にゃんにゃんモードで兄者の肩に擦り寄るものを、ガン無視される。
ま、まだまだだ。こんくらいじゃ俺はめげないぜ。

「晩メシなにがいー?兄者の好きなオムライス作ろっか?」

兄者の腰の辺りにギュッと抱きつく。・・ガン無視。

「そーいや昨日、大道寺からもらったパンが超うまくてさー」

腕をぎゅーっと組む。・・・・総無視。
めげた俺、ありけり。

完全に相手にしてもらえないことにしょげた俺は、ソファの上で体育座りをして、そこに頭を埋めた。

「ごめんって、兄者ー・・。無視はきちーから、せめてなんか反応して」

返ってくる言葉、ナシ。

これはマジでヤバイやつだ。
俺がどんなに平謝りしても、なかなか許してもらえないやつだ。

でも、兄者がどうしたら許してくれるかなんて、バカな俺にわかるはずがない。
俺ってば、このままずっと兄者に無視され続けるのか・・?
同じ家に住んでるのに、家庭内別居状態・・?
それだけは絶対にやだ。つらい、つらすぎる。

「ごめん、ごめんごめんごめん。俺、ちゃんと勉強するから許して?」

兄者の横に正座して頭を下げるけど、一向にこちらを向いてくれる気配はなかった。

「俺、どーすれば許してもらえる?教えてよ、俺バカだからわかんねーよ・・っ」

語尾が滲んだ。
おいおいおいおい、なに泣きそうになってんだ俺。
それはさすがに雑魚すぎる。
てか、泣けばいいと思ってると兄者にますます見放される。

「兄者、こっち向いて。ずっとこのままとか、俺・・たえらんねーから」

ボタッとソファに涙が落ちた。
・・はい、雑魚決定。

声で泣いているのがバレたのか、兄者がちらりと俺の方を見た。

「ちょ、稜?泣いてんの・・?」

恥ずかしすぎて下を向いていると、そう呼びかけられて頭をあげさせられる。
目の前には、驚いて動揺してる兄者の顔。

「泣きたくて泣いてんじゃねーよっ・・」

目元を拳で拭って、目を逸らす。
これ、雑魚なりのプライドでした・・。

「・・ほら、ティッシュ」

そして、兄者から差し出されたティッシュが視界に入ってきて、そのままそこを拭われた。
俺は礼を言うのも忘れ、ティッシュを受け取り、適当に目元を拭いてから鼻をかんだ。

「なんで泣くかなあ・・」

はあとため息をついた兄者は、すっかり怒る気力をなくしたらしく、赤く目を腫らしているであろう俺の顔を見ていた。

「だって兄者、無視するし・・」

俺だって、相手が兄者じゃなきゃこんなに必死にならない。
好きなやつを目の前にヘタレちゃうってのは・・まあ、しかたないだろ?

「うん、ごめん。それは謝る」

スンと鼻をすする俺の肩を抱いて、頭を撫でてくる。
・・こういうとこは、やっぱり「兄貴」ってかんじがするな。
そんでもって、やっぱ兄者は優しい。

「それで、稜」

改まって、といったかんじに兄者が俺を呼ぶ。
ようやく落ち着いてきた俺も、「うん?」と返して、兄者の顔を見た。

「さっき、「ちゃんと勉強する」っていったよね?」

兄者がにこっと可愛らしい笑顔を浮かべるけど、その笑みは俺が拒否することを許さないといったかんじ。
・・・イコール、こわい。

「え、えーと・・たぶん・・?」
「たぶん・・?―――はい、でしょ?」

ぞわぞわっと背筋が寒くなる。
これはもしや、無視よりも怖い仕打ちが待っているかもしれない・・?

「とりあえず、今日はもう前日だから超スパルタでいくよ?赤点とっても、課題は手伝ってあげないからね」

兄者の顔がいきいきしているように見えるのは、たぶん気のせいじゃないはずだ。

で、でもとりあえずは許してもらえたようだし、今は赤点とらないように兄者のスパルタ講習に全力で挑むしかない。
これがたぶん・・兄者の優しさの形・・・だしな!

*END*
拍手ありがとうございました!
劉に関してはほんとヘタレすぎてうざいってくらいの稜を目指してます。

[拍手御礼全5種]



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