「太陽の希望」(流藤)


しんとした暗闇の中で、私と流川くんははただじっと並んでいる。
何も、しない。何も、していない。

流川くんと仲良くなるにつれて、知ったことがたくさんある。
その中でも特筆すべきなのが、
彼は意外とふつうの人だということ。

いつだって格好よくて、何もかも完璧で、常に“流川楓”という仮面を崩さない人だと思っていた。
でも、彼だって、面白ければ笑うし、失敗だってするし、それこそ道で躓きかけたのも見たことがある。
だから、こうやって、負け試合の後に、ひっそりと夜に佇んでいるのも当たり前なのだ。


「何、やってんだよ」
「なんでもない」
「“おかーさんが心配しちゃう”ダロ?はやく、帰れ」
「帰らない」
「・・・・・・・」
「帰らない、からね」
「今夜は帰さない」
「今夜は、帰らない・・・・・・・?」
「それ、もっかい言って」
「・・やだ。」

小さく、舌打ちをするのが聞こえた。ああ、“流川楓”だ。

「泣いても、いいよ?」
いじわるな言葉だと思う、でも、これくらいしか言葉は見つからなかった。
「だーれが・・・・・・
 ・・・胸?貸してくれんの?」
途中で気付いたように言い換える流川くん。表向きは無表情だけど、ほんとはどんな顔してるのか、私は知ってる。
「へんなこと、しないなら」
「どあほう」
そう言って、倒れこんでくる流川君の頭。
変なこと、どころか、ぴくりとも動かない。
表向きの顔すら見えないけど、どんな顔してるのか、私は気付いてる。
ああ、普通の“流川楓”だ。
彼が、きっと、普段は見せないだろうけれど。
そっと、流川くんの頭に手のひらをのせる。彼の領域に入っていることを実感して、どきどきする。

私たちを包むのは静かな暗闇、太陽が覗きにくるまでは、誰にだってみつからない。



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あと1000文字。