一体これはどういった状況なのだろうか。
「えり子様、其れはこちらでございますよ」 「はい。…あれ…上手く切れないわ」 「此処に切り込みを入れれば簡単に……えり子様!何をなされてるのです!」 「え?っ、きゃあ!」 悲鳴と共に何かが宙に舞い、一敏の足元にベチャッと落ちる。 その音に振り向いた二人は一敏の姿を視界に入れると、心底驚いたように目を見開いた。 「お、御館様…!」 先程まで居なかった存在に島崎は思わず声を上げ、慌てて一敏に駆け寄り足元の物体を拾う。 そして其れを後ろ手で隠すと引き攣った笑みを浮かべた。 一瞬窓からの光に反射したのが魚の鱗だと気付き、一敏は辺りを見渡す。 散らかった台所。 包丁を持ち、未だ唖然としているえり子。 原因不明な生臭さと焦げ臭さが否応なしに鼻を突く。 「……何をしているのだ」 この惨事から何か良くないことがあったのだろうと察しはつくが、一応訊いてみた。 するとえり子がより一層狼狽しながらも口を開く。 「あの…お料理をしようと、島崎さんに手伝ってもらって…」 「料理?」 恐る恐るとした様子で指差された方向に視線を向けると、見慣れた皿に謎の物体が盛られているのが目に入った。 料理。これが。 無意識に口から出そうになった言葉を飲み込み、一敏は漸く状況を完全に理解する。 成る程。 自分の惚れた女は予想していた以上に料理が余程駄目らしい。 |
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