拍手御礼小咄~超おまけ番外編2~


『ごめんね鷹司君~出会って三カ月編~』


「なあなあ香月」
「んー?」
「お前ってさ……今まで何人と付き合ったことある?」
「は?」
 ジュースを買いに美咲が席を立ったのを見計らって、俺は香月に問いかけた。
「いや、だからさ。今まで付き合った女の数だよ!」
「何で、んなこと聞くんだよ」
「いやぁ、何となく気になってさ」
「ふーん……」
 そう言って、香月は何かを思い出すような仕草をした。

 橘香月。最初の講義で組まされたグループで、たまたま一緒になったヤツ。
 それから何となく話すようになって、今は美咲、一宮美咲と三人、こうやってつるむことが多くなった。
 まだ出会って数カ月だったが、俺はコイツについてあんまりよく知らない。特に、恋愛について。構内で見掛けた可愛い子についてとか、どの子が一番好みかとか、そういった当たり障りのない範囲の話しかしたことがなかった。

 でもやっぱり、これから仲良くやっていこうと思ってる身としては、こういう話が聞きたいわけで。
 やっぱりここは、男同士腹割って話しておくべきだと思うわけだ。

「で? 何人だよ」
「ん……」
 香月は、指を一本、二本と折り曲げていく。
「二人か……ってぇ!?」
 香月はその後、三本、四本……と、どんどん指を折り曲げている。
 おいおいおいおい!!! ちょっ、待て!! お前、両手折り曲げて……って!? ありえねえ!! 今度は折った指を立て始めただって!! ふ、二桁越え……!?
「ちょっ、香月……お前、一体何人……」
「うーん……あの子と……あ、あの子もか……」
「うわうわうわ!!!! ちょ、ストーップ!! お、お前、一体何モン!?」
 焦る俺の声に、ようやく香月の指が止まる。
「こんなもんかな?」
「こ、こんなもんって、お前な……」
 驚きで固まった俺に、香月が言う。
「鷹司、お前は?」
「え――――」
「お前は何人と付き合ったことあるんだよ」
「お、俺は……ま、まあ普通だよ……ハハ」

 何だか今の香月の前で、自分の恋愛談を話せる気分じゃなかった。
 ていうかコイツ、こんなふっつーのヤツのくせして、一体どんなテク持ってるんだ!?
 
「普通って……答えになってないだろ」
「ま、まあ細かいことは気にすんな。そ、それより香月、お前……見掛けによらず、モテんだな!?」
 香月はしばし俺を見つめた後、スッと目を細め、にやりと笑った。
「まあな」
「ぐっ……」
 喉が詰まったように鳴る。
 何だか目の前のコイツが、タダモノじゃない気がしてきた……。もしかして俺は、とんでもないヤツと友達になっちまったのか……?
「お待たせー。はい、これ」
「お、サンキュー」
 香月が弾んだ声を上げる。
 すっかり打ちひしがれた俺の前に、ヒンヤリ冷たいジュースが差し出された。見上げれば、美咲が不思議な顔をしている。
「どうしたの? 鷹司。浮かない顔して」
「いや……何か……ハハ……」
「? 一体どうしたの、香月」
「さあ?」
 香月は何食わぬ顔で、ジュースを飲んでいる。
 ……くっそー。何だかちょっと、ムカついてきたぞ。コイツ、実は結構性格悪いんじゃなかろうか。
 俺は、気を取り直して美咲に向き直る。
「な、なあ美咲。美咲って、今まで何人くらいと付き合ったことある?」
「どうしたの、突然」
「いや、今香月と丁度その話してて……」
「ふーん……」
 美咲は少しだけ考えた後、そっと俺の耳元に唇を寄せた。
 ふわり、と甘く爽やかな香りが漂う。
 突然の出来事に、軽く眩暈がする。み、美咲ってば、大胆だな……。
 しかし、次の言葉を聞いた瞬間、冷水でも浴びせ掛けられた気分になった。

「――――20人くらい?」

「んぁっ……!?」
 衝撃で言葉を失った俺に、美咲は悪戯に微笑んで離れる。
 パクパクと口を開く俺を他所に、香月と美咲は午後の講義について話し始めた。

 な、何なんだよコイツら……! 一体、どういう世界で生きてきたんだ……!?(汗)

「そうそう、それで――――」
「……俺、今日はもう帰るわ。じゃあな……」
「え? おい、鷹司。まだ講義残って――――」
「うっせー! 俺はなー、これから帰って、街へ繰り出すんだ! そして、美人で可愛い子ちゃんたちを片っ端からナンパしまくってやるんだ!!」
「は? 鷹司、何言って――――」
「そんでなー! お前らの恋愛遍歴なんてあっという間に追い越してやるからなーーーーっ!!!!」
「あ、鷹司!!」

 呼び止める二人の声を無視して、俺は構内を走り抜けた。

 くそっ! 俺は一体どうしてあんな奴らと友達になっちまったんだ!! くそーっ! 
 香月はともかく美咲まで!? 20人ってどんな冗談だよ!! 美咲は確かに顔は可愛いが、だからって20人は多すぎだろ!? どんな男と付き合ってきたっていうんだよ!!! もっと自分を大事にしやがれこんちくしょーーーー!!!!(涙)
 香月だって……あんな無害なツラしやがって、実はとんだ狼野郎だったなんてどんな冗談だよ!! どんな言葉で女に近付いて、どんなテクで落としてきやがったんだよこんにゃろーーーー!!!(汗)ていうかいつか女に殺されても知らねえからなーーーーーーーー!!!!!
 
 
 
「……何ていうかさ、鷹司ほどからかい甲斐のあるヤツも珍しいよな」
「単純って言うか、純粋って言うか……」
「ていうか……俺たち息ピッタリ?」
「……まさか香月までこんな冗談言ってるなんて……」
 
 走り去った俺を見送った二人の間で、こんな会話がされていたことなんて俺は気付いていなかった。
 
 
 
 ***  
 
 
「へいへい、そこの彼女、俺とお茶しない?」
「よおよおネエチャン、俺とあそばなぁい?」
「そこのカワイ子ちゃーん、俺とランデブーしちゃったりぃ?」

「「鷹司っ!?」」

 翌日、本当に街でナンパ師になりかけていた俺を見つけた二人が、顔面蒼白で謝ってきた。
 しかも、美咲にいたっては俺の姿を見るなり半泣きだった。
 何だよ、泣くほど心配したのかよ。それにしては、何か嫌なものでも見るような目付きだ。
 香月にいたっては、俺の格好を上から下まで眺めて、フッと視線を逸らしやがった。
 あ、あれか? あまりにも俺が決まりすぎてて、嫉妬したのか?
 どうだ見たか!? いつセンター街に繰り出してもおかしくない俺のファッション! そんじょそこらのギャル男なんて目じゃないっ! 

 でも、二人とも俺にはナンパ師は似合わないって言うんだよ。
 ちっ、何だよ。せっかく新しい道が開きかけてたってのに。

 あれ、でも、一人も俺の魅力にかからなかったような……。

 あれ……?
 
 
 



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「うっ……鷹司があそこまで才能とセンス無かったなんて私思わなくて……思わず泣けてきちゃって……」
「美咲……気持ちは分かるけど……もとはと言えば俺たちが悪いんだ」
「うぅ……ごめんね鷹司。アンタをからかった私たちの責任だよ! あんなみっともないことさせてごめんね……っ!」
「……鷹司、マジで悪かった。もうこういう冗談言うの止める……」

 あの後、二人の間でこんな会話がされていたことなんて、俺はあれから数年経った今でも気付いていない……。



――了――



是非、一言お願いいたしますv

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