拍手御礼その1(2種)

【The Familiar of "COLDA"】
(コルダ・Zロの使い魔のWパロ。以前の話はMainのJunkに有。)



シノブの言葉は過分ではなかった。
白を基調に、淡い色合いの薔薇が咲き誇る庭は、見ている者の心を浮き立たせる。
「レン、あちらの薔薇が見事なんです」
キラと見に行くといいですよ、とシノブがにこやかに促すと、レンもキラも微かに眉をひそめた。
「しかし、竜騎士が殿下のお傍を離れる訳には」
「目視の範囲では警護は無理?」
キラの眉が元に戻ると、
「御意」
一礼する。

いきなり王子と二人きりにさせられた土浦は、何をどうしていいか解らず、ただシノブの後をついて歩いていた。
「レンが、周りの学生から浮き上がっているのをご存知でしょう?」
「えっ?」
突然の言葉に対して、しかもそれが事実なだけに、土浦は言葉を選び切れない。
「よかった」
「え?」
「君が、レンを気遣ってくれているようだから」
シノブが静かに向けた視線の先には、白薔薇の咲き乱れる一角で談笑するレンとキラの姿があった。
「レンが、ゼロクラスというのは知っていますか?」
「あ」

『俺は、ゼロクラスだ』

レンの声が土浦の耳にリプレイする。
「その、ゼロクラスの意味がよく解らないんだ、あ、です」
ついでに、殿下になんて口を!とどやされる声も。
「構わないよ、普通に話して」
おれもそうするよ、とシノブは笑って見せた。厭味のない、柔らかい笑みだった。
「君は、違う世界から来たんだったね」
さらりと言ってのける様子が、土浦がこの世界の人間でないと認めているのだと感じさせる。
「座ろうか」
シノブは小さな池の脇にあるベンチに腰を下ろした。促され、土浦も戸惑いつつ隣に座る。
「レンは属性を持たない、つまりはどの属性の魔法も使えない」
「使えないって、でも・・・」
土浦は何度か、お仕置きなどと称してレンの魔法に吹っ飛ばされている。
シノブはそれを汲み取ったように頷くと、
「レンの魔法は、無機なんだ」
まるで、空気が渦を巻くだけの。
普通、魔法は風火水土のどれかに属する。少なくとも、メイジが魔法を使えば、同じメイジならば属性を感じ取れるという。
そのいずれにも属さないレンは、無属性、すなわちゼロクラスと呼ばれている。
「だからって、別に困ることなんかないだろ?」
「ヴァリエール・・・つまりレンの家系は、代々続いた名門貴族でね」
降嫁した姫の血筋を受け継ぐヴァリエールは、王族との繋がりも濃く、時に王の側近を勤めることもあった。
「貴族のプライドってやつか」
「レンの父君も、おれの父・・・国王の信頼厚い、優秀なメイジだった」
「今は違うのか?」
素直な疑問を口にした土浦に、シノブは一瞬目を丸くするも、すぐにいつものように微笑む。
「君は、予想以上にしっかりしているようだね」
「え?」
「レンの父君と母君は、十年前に火事に巻き込まれて亡くなっているんだ」
あまりに残念だよ、とシノブはそう呟く。
「だからこそ、遺されたレンは、ヴァリエールの名に恥じない人間であろうと努力しているのだろうね」
何となく、土浦の中でシノブの話が繋がっているのが解った。
「幼い頃はよく、ここでレンと一緒に遊んだよ」
水面に反射する光を、眩しそうに目を細めながら眺めるシノブを、土浦は横目で見詰める。恐らくシノブが見ているのは池ではなく、その周りに居る思い出の中の幼いレンなのだ。
まるで我が子を見る母親みたいだ、と、少しばかり的外れな比喩をした後、そんな自分が恥ずかしくなった。
「多分、レンは君に厳しく接しているだろうけど、それはあの子の焦りなのだと解ってあげて欲しい」
「毎度黒焦げになる俺の痛みも、あいつに解って欲しいんだけど」
ぶっ、とシノブが吹き出した。確かに、と呟くと
「あの子は、自分の中の正義を貫き過ぎるからね」
ほんの僅か、眼鏡の向こう側に悲しい色が浮かぶ。
「ほんとに、あいつのこと見てるんだな」
土浦がぽろりと零した言葉に、シノブは首を傾げる。
「そうかな」
「だから、あいつはあんなに王子を敬愛してるんだろうな」
「だと嬉しいけれど」
そう言って笑うシノブの言葉に、土浦は何かちくりと痛みを覚える。
「・・・?」
「どうかした?」
「いや、別に」
その痛みの意味を、土浦自身が理解出来ずにいた。
「ツチウラくん」
ふいにシノブの掌が、土浦の手の甲に重なる。
「えっ」
「気を悪くしないで聞いてほしい・・・レンは、普通では有り得ない、人間である君を使い魔として召喚してしまい、益々己の魔法に劣等感を抱いていると思うんだ」
シノブの温もりと共に、その声もじわじわと土浦の内に染みてくる。
「でもね、それは劣等感を抱く必要なんてないものなんだ」
寧ろ誇っていい。
「それをレンに解ってもらえるだけのものが、君にはあると思う」
シノブの指先に、力が篭る。
「あの、意味がよく・・・」
「わからない?」
シノブが横から掬い上げるように、土浦の顔を覗き込んだ。
「君は、黒の使い魔を鳴かせた」
「黒の、って・・・あ」
ビアノに思い当たると、
「あれは、俺のいたとこではそう珍しくもないし」
「それでも、ここでは奇跡に等しい」
いにしえの魔法、とシノブは呟く。
「いにしえの、魔法?」
繰り返す土浦に頷きを返すと、
「カナザワ先生の研究している、我が国の大事に必ず関わるという、究極の魔法」
シノブの表情は硬くなる。
「君の力が、必要だ」
「って、俺?」
あまりに真摯に見詰められ、逆に土浦が気後れした。
「つまりは、君のマスターであるレンも」
シノブの言わんとする事が、朧げではあるが、見える気がする。
「国の大事ゆえに、大きな声では言えないけどね」
シノブは表情を緩めた。

「頼りにしてるよ」

ツチウラくん、とシノブに春の日だまりのように微笑まれ、
「は・・・はい」
としか応えられない土浦は、自分の立ち位置がよくわからないままであった。





気が向いたら続く…かも(いつもこんなんですいません)

100727

私の白龍と、もしかしたら続きを待っていてくださる稀少なプリンセスへ捧ぐ。




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20100727



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