*秋雨前線 柳蓮二*



 別に雨は嫌いじゃない。
 部活に支障が出るのは気に入らないが、そうでなければ雨音も、湿気を含んだ風も、足元の水溜まりに弧を描く水滴も中々にいいものだ。

 だが今日は。
 しとしとと降ったり止んだり、ぐずついていて嫌になる。天気のせいばかりではない。寧ろ俺の心持の方が大きく影響している。

「言ってしまえばいいのに」
 精一の口ぶりは穏やかだったが、どこか俺を咎めているようにも聞えた。返事をせずに、しかし部誌を書く手を止めて精一を見る。

「俺の方が大事に想ってるって」

 そう精一は繰り返した。

言えるものなら言ってやりたい。だが俺はそんな自棄になりはしない。ちゃんと見定めることができる。

言うべきではない、と。

 そう言った俺に、精一は不満そうな、哀れむような複雑な視線を寄越した。この話を終わりにしたくて、俺は再び手元に目を落とす。
 精一は何も言わない。

 ――逃げではない。
 心の内でそっと呟いた。何が最善なのか、俺はちゃんと知っている。

 口に出せばそれは形を持って、周囲が知覚するものとなる。
 口に出さなければ、形にしなければ。それはとても不確かで、不安定な感情。
 いつか風化していく、ただの幻想。

 形にすることなどないのだ。

 この感情に、名前などいらない。







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あと1000文字。