『鳥籠』
いつも見上げる空は近くて遠い。
手を伸ばしても誰も差し伸べてくれない距離だけどなぜか届きそうな気がして懲りずにずっと同じことを繰り返してる。
誤って地球という星に生れ落ちてしまった。
醜いドロドロしたものがうごめいていて私を外から出してくれない。
――ねぇお願い、ここから出して。地球という、この鳥かごから。
天に向かい彼女は今日もそう思っている。
朝のワイドショーはろくなことを報道しない。冴えないニュースばかりが次々とテレビから流れる。そんなことを朝っぱらに報道して気分がいい人間がいるのだろうか。……くだらない。
「ねー、昨日のドラマ見たー?」
「うん見たー! マジであの展開はありえないよ。まさか女に走っちゃうなんてサー」
「でもあの男がコケたときウケたー、マジありえないー」
そんな話をしている女子高生。……くだらないと感じながら自分も同じことをしていた。そうしないと生きていけないと知ってしまったから。そのほかの生き方があるとしても、きっと自分にはできないから。
何故、自分はこの星に生を受けたのだろう。
他の、もっと遠い星でよかったのに。何故、人間に生まれてしまったの? もっと他のもので良かった。
どうせなら、永遠に近いどこまでも続くひろい無重力の宙――そら――を廻っていたい。形なんていらない。空気のように、目に見えないやさしい存在。そんなものになれたらいいのに。
ある日、空を目指した。階段を上り、この建物の一番高い場所まで来た。
どこまでも広がる空だった。吸い込まれて消えたいくらい。
――ここから空に飛べるだろうか。一瞬でも空気と一緒になれるだろうか。
そして、柵を越えたのに。
「何故、あなたは死を選ぶの」
その人は深い漆黒の瞳で、自分を見た。風になびく闇色の髪、身にまとう暗黒のドレス。
まるで、死神様のよう。すぐにわかったのだ。この人はここの人間じゃないと。自分と同じ他の場所からやってきた人。
「生きている意味なんてない」
「でも、死ぬ意味もないと思うわ」
「……!」
「生きる意味って、自分にしか見えないものなのよ。でも見つけられない。だから死を選んでしまう。けれど、死ぬ意味は生きる意味よりもないのよ」
自分に近寄るその人は吸い込まれそうなほどの何かを確かにまとっている。懐かしき、記憶のような、そんな感覚。
「とめないわ。あなたはそれを望んでるのだから」
そう、その言葉は、一度それを体験した者のような言い方だ。
「死んだら、後悔だってたくさんするわ。『生きていればよかった』そんな後悔を絶対しないといえる?」
その言葉は自分の胸の奥底にあるもう一つの自分を呼び起こした。それが本当の自分かもしれない。不思議な力が自分に近寄ってくる。柵をすり抜ける、透き通った白い手。それに引っ張られたとき、別の世界を感じた。黒くて白い、寒くて熱い世界。それが、この人の世界。
いつの間にか涙が流れていた。なぜか、泣けてしまって。なぜか、さっきまでの自分がいなかったのだ。それが、この人の力。この人は、何者なの。大きな風が心の中に吹き込んで飛ばされてしまった邪悪な感情。
生きることも、わるくないと、思った。
=終=
拍手ありがとうございます。お礼小説を書き下ろしました。
気づく人は気づく内容です。
いつも見上げる空は近くて遠い。
手を伸ばしても誰も差し伸べてくれない距離だけどなぜか届きそうな気がして懲りずにずっと同じことを繰り返してる。
誤って地球という星に生れ落ちてしまった。
醜いドロドロしたものがうごめいていて私を外から出してくれない。
――ねぇお願い、ここから出して。地球という、この鳥かごから。
天に向かい彼女は今日もそう思っている。
朝のワイドショーはろくなことを報道しない。冴えないニュースばかりが次々とテレビから流れる。そんなことを朝っぱらに報道して気分がいい人間がいるのだろうか。……くだらない。
「ねー、昨日のドラマ見たー?」
「うん見たー! マジであの展開はありえないよ。まさか女に走っちゃうなんてサー」
「でもあの男がコケたときウケたー、マジありえないー」
そんな話をしている女子高生。……くだらないと感じながら自分も同じことをしていた。そうしないと生きていけないと知ってしまったから。そのほかの生き方があるとしても、きっと自分にはできないから。
何故、自分はこの星に生を受けたのだろう。
他の、もっと遠い星でよかったのに。何故、人間に生まれてしまったの? もっと他のもので良かった。
どうせなら、永遠に近いどこまでも続くひろい無重力の宙――そら――を廻っていたい。形なんていらない。空気のように、目に見えないやさしい存在。そんなものになれたらいいのに。
ある日、空を目指した。階段を上り、この建物の一番高い場所まで来た。
どこまでも広がる空だった。吸い込まれて消えたいくらい。
――ここから空に飛べるだろうか。一瞬でも空気と一緒になれるだろうか。
そして、柵を越えたのに。
「何故、あなたは死を選ぶの」
その人は深い漆黒の瞳で、自分を見た。風になびく闇色の髪、身にまとう暗黒のドレス。
まるで、死神様のよう。すぐにわかったのだ。この人はここの人間じゃないと。自分と同じ他の場所からやってきた人。
「生きている意味なんてない」
「でも、死ぬ意味もないと思うわ」
「……!」
「生きる意味って、自分にしか見えないものなのよ。でも見つけられない。だから死を選んでしまう。けれど、死ぬ意味は生きる意味よりもないのよ」
自分に近寄るその人は吸い込まれそうなほどの何かを確かにまとっている。懐かしき、記憶のような、そんな感覚。
「とめないわ。あなたはそれを望んでるのだから」
そう、その言葉は、一度それを体験した者のような言い方だ。
「死んだら、後悔だってたくさんするわ。『生きていればよかった』そんな後悔を絶対しないといえる?」
その言葉は自分の胸の奥底にあるもう一つの自分を呼び起こした。それが本当の自分かもしれない。不思議な力が自分に近寄ってくる。柵をすり抜ける、透き通った白い手。それに引っ張られたとき、別の世界を感じた。黒くて白い、寒くて熱い世界。それが、この人の世界。
いつの間にか涙が流れていた。なぜか、泣けてしまって。なぜか、さっきまでの自分がいなかったのだ。それが、この人の力。この人は、何者なの。大きな風が心の中に吹き込んで飛ばされてしまった邪悪な感情。
生きることも、わるくないと、思った。
=終=
拍手ありがとうございます。お礼小説を書き下ろしました。
気づく人は気づく内容です。