『芦川家の休日』



ピピピピ、ピ

手探りで頭上の時計を止める。ぼやけた視界で時刻を確認すると時計の針は8時5分前を指していた。

(早く起きて支度しなきゃ…今日は、)

そこまで考えて隣でまだ夢の世界にいる人物を見る。今はこんなに穏やかな顔で寝ているけれど、今日のことを話した美鶴はそれこそ般若のようだった。(顔が整っているぶんだけ余計に怖い)起こさないようにそろりと腕から抜け出し、フローリングの床に足をつけようとした。

「…どこ行くんだ」

突然後ろから腕を引っ張られる。軽い力だったが、朝一番、しかも身体にあまり力が入らない状態で引っ張られベッドに逆戻りした。

「わっ!び、びっくりした…起こしちゃった?」
「いや…今何時?」
「8時だよ」
「まだ早いだろ…」

腰に手を回され引き寄せされる。再び夢の世界に旅立とうとする美鶴を慌てて引き止めた。

「美鶴はまだ寝てていいよ?けど僕は約束が…あ、ご飯は用意しとくから「約束って?」
「昨日言っ「覚えてない」

間髪入れず追い詰めるような口調に一瞬たじろぐ。(あれこれ昨日の続き…?)

「今日は約束があって、」
「誰と」
「カッちゃん」
「断れ」
「またもう!美鶴から日曜日に仕事入ったって聞いたから予定入れたんだからね!」
「休みになったって昨日言っただろ」
「突然過ぎる!」
「…亘と過ごす時間作るために仕事早く片付けた俺が悪いって?」
「そんなこと言ってないよ!けどカッちゃんとはずっと前から約束してたし…」
「俺より小村が大事だし?」
「…っ!」

その冷たい言い方に堪え性のない涙腺が緩む。せっかくの休みの日に僕たちは一体なにをやってるんだろう。本当なら楽しく過ごすはずだったのに、こんな、ケンカみたいなこと…

「ごめん…」

体温の低い手が頬に触れる。目の前の美鶴は困ったように笑っていた。

「ごめん、言い過ぎた」
「ちがっ、僕の方こそ…っ」
「確かに亘の方が酷いよなあ、せっかくの休みに奥さんは旦那さん置いて遊びに行くなんて」
「う…」
「…ばーか冗談だよ、楽しんでおいで」
「美鶴…」
「でも早く帰って来ること」

額に音を立ててキスされる。次の週末は俺が先約だからな、甘い顔で囁かれカッちゃんには悪いとは思いながらも、今すぐ「食事は今度にしよう」と電話したくなる衝動に駆られた。

「…ずるい」
「何が?」
「そんな顔されたら行きずらい…」
「じゃあ行かない?」
「…行く」
「(ちっ)」



(舌打ちする美鶴ってかわいくないですかわたしだけですかそうですか)



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