当日に、なってしまった…。




期待して良いのか絶望すれば良いのか。
なんにしろその答えは『今から行く』というそっけないメールの主が
俺の家に到着すればおのずと出てくることだろう。
しかしわざわざ仕事終わり即行でうちに来るということは
つまり渡したい物があるということに結び付けては行けないだろうか?
否っ!!
これはもはや期待しても良いと一般的な状況が言っている。
普通なら、だが。

―ピンポーン

呼び鈴の音に少しだけ胃がきゅっと締まる感覚を無視して
今日が特別な日〜なんて全然思ってませんよ〜感を出しつつ
ドアを開ける。
そこには寒いが故当然にマフラーを巻いている中村。
おう、とこれまたぶっきらぼうに挨拶を交わし慣れたようにうちに上がる。
しかしいつもの様にソファーには座らず後ろから来る俺の方に向き直り
しばしの沈黙。
中村はまだ、マフラーを取っていない。
俺も何も言わず喉を詰まらせていると
お前はそこに座って待ってろ、と俺の肩を押して座らせ
いともあっさりと首のものを取り外した。
そこには俺が期待したような代物はなく
見慣れた中村の首が出てきた。
それに少々ガッカリした俺を置いて中村はすたすたと鞄を持ち台所へと消えた。
バレンタインに中村自身を、なんていうのはさすがにレベルが高かったが。
待て。
俺をここに置いて台所に消えたというのはどういったことだ?
まさか今から手作りなんて…。
仕事で忙しいが故に事前に用意できなかったが、
当日俺の家で愛の籠ったチョコを製作しようだなんて。
なんて健気なんだっ!
俺は高鳴る胸を抑えられず、鶴の恩返しの好奇心に負けたおじいさんよろしく
そぅっと台所へと足を向けた。
しかし。
そこには俺が想像していたよりも何百倍もの衝撃的映像が広がっていた。
片手に溶かしたチョコの入ったボールを持ち
そこに生クリームを入れながら混ぜている。
そこだけ見れば俺の想像したとおりの光景だが
なんだ俺は。夢でも見ているのか。
下から上へ、上から下へと何往復かしばし中村を眺めていると
俺に気づいた中村がばっとボールを持ったまま
自分の身に付けているものの裾辺りを隠した。
そりゃ、そんなぴらぴらエプロンだけじゃ心もとないだろうよ。
「来んのが早いだろうがっ」
前かがみになりながら叫ぶ中村に俺も同様に前かがみになりそうになりながら
あまりの刺激物に耐え切れなくなり回れ右をし一旦休憩をとる。
一体なんだったんだあれは。
遂に俺の妄想も自分では制御できないまでになってしまったのか。
そんな自分に少しだけ嫌悪し一向に後ろを振り向けないままの俺に後ろから声がかかる。
「なに変なもの見ちゃいました的な態度とってんだ」
いやだって中村さんよ、あんたそんなキャラじゃないでしょ。
特に俺には。
冗談でも、俺を破滅に導きたいにしても、世界が滅ぼうとも。
チョコ片手に裸エプロンなんて絶対にしないでしょうが!!
なんて俺が思考を巡らせて沈黙を保ち続けていると
「やっぱいくらなんでも、これはキモいか」
はぁ、とため息をつきことんとボールを置く音がする。
こんな中村の、落胆したような声はなかなか聞いた事がない。
夢だとしても中村を悲しませるなんていうのは
やはりまずいだろ。
ましてやこんなおいしい状況を喜ばない俺はそれこそ頭がイカれちまってる。
心臓に悪いあの光景をもう一度勇気を出して振り向いて見た。
そこにはもう着替えようと丁度エプロンの後ろリボンを外そうとしている中村がいて
俺は自分の心臓破裂を防ぐ為急いで中村の手を止めた。
「そそそそそのままで良いからっ」
あ?と見上げてきて「嫌じゃないのか?」と問う中村に
「寧ろ大歓迎ですっ!」と勢いづけて言った。









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長いっゼ★続くっゼ★エロもあるんだっゼ★



明日の活力の為に清きコメントをっ!!(拍手だけでも幸せです)

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