・それが10年前の話・




「あーあの制服!相変わらずかわいいなー」
紺のブレザー、チェックのスカート。黒い棒タイに黒いハイソックス。


「あー…」
隣ではしゃぐ奴を尻目に、あたしは微妙な過去を思い出した。



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細身のデニムに黒いパーカー。
うっすら施されたメイクと漂う雰囲気。


「あん?何や」
「おねーさん、うち近いんで休んでいきませんか?」


異動した先の私立のお嬢様女子中はほんっとに肌に合わなくて。
関西弁ってだけで下品扱いされるし。
特殊な感覚がどうしてもイライラして。ほんっとに毎日やってらんなくて。
飲みすぎてふらふらしてるあたしにそっと肩を貸してくれたのは、美少女だった。



「あー、すまん」
「いえ」
冷たい水を一気に飲んで、大きなやわらかいベッドに倒れこむ。


どうやらこのガキはこの殺風景でだだっ広い部屋に一人暮らしらしい。
どこのお嬢様女子大生だか知らないけど、世の中ってのは不公平だ。



目を閉じているが、一向に消えない人の気配と突き刺さる視線を感じた。
うっすらと目を開くと、白い肌を浮かび上がらせて
そのガキがベッドの横に腰掛けてそっとあたしを見ていた。


「…何やねんさっきから」
「え…綺麗だなって思って」
「はあ」
「見ててもいいですか」
「ええけど、ほどほどにしといて」


そのまま酔っ払っていたあたしはすごい勢いで眠ってしまった。
我ながら物凄い神経の太さだったと思う。



次の日。
遠くの物音に気がついて目が覚める。
するとあからさまに自分の部屋ではなくて、慌てて居間に飛び出した。


「あ。おはようございます」
そこには弁当を詰めているらしい制服姿の美少女がいた。
昨日のことをぼんやりと思い出す。


「あ…あー。昨日は世話んなっ…」
その見覚えのある制服を二度見した。
制服。…制服?
紛れもなくあれは私立お嬢様女子中の制服。


っつうか。



「あんた…うちの生徒なん…?」
「はい、そうです、中澤せんせ」
「……は…はあ…」
確かに朝にはっきりと顔を見たらまだあどけなさは残っている。
見覚えがないこともない、こともない…こともない。
けど。いや、もう…いやいやいや。


何かもう、この年でこんなに驚くこともまだ全然あるもんだ。
意味深な笑顔によくわからないドキリがあった。



その日から、一気に仕事生活どころが人生すら変わった。
どう変わったか、っていうのはまた別の話。





おわり。(なかよし)




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