罠に嵌まるのもお約束の続きです。 【美味しくいただかれたウサギ】 「ケーキはいかがでしたか?」 優しげな瞳に見つめられ、寺沢は頬を朱色に染めて俯いた。 「…ぁ、あの、すごく美味しかったです……」 「それは何よりです。──どうぞ、お手を」 促されるままに立ち上がり、春樹にエスコートされて出口へと向かう。 とびっきり甘やかされて、お姫さまになったみたいに特別扱いされて。 そんな幸せな一時ももうすぐ終わってしまうのだと思うと、少しだけ悲しかった。 「兄貴、俺はもう大丈夫ですから…お仕事、頑張ってくださいね」 春樹に相手をしてもらうのを今か今かと待っている女子たちの視線に堪えかねて、寺沢は握られた手をやんわりと外しにかかる。 しかし春樹の手はびくともせず、逆により強い力で拘束されてしまった。 「……? 兄貴……?」 戸惑う寺沢に、春樹はふっと唇の端を上げて笑う。 その笑みは先ほどまでのものとはほど遠い、意地悪で、どこか妖艶な「いつもの」彼の笑みだった。 「腹減った。飯食いに行くぞ」 言い終わるや否や、かけていたメガネを外して胸ポケットに収めると、乱暴な仕草で襟元を緩める。 |
|