太陽が輝かない日は、決まって君の機嫌が悪くなる。



「甘えん坊」




雨が降っている。
しとしと、しとしと。
昼間だというのに、やけに空が暗い。

「雨ですねぇ」

縁側に座って熱い茶をすすりながら、弁慶がぽつりと呟いた。
もう五月も終わるというのに、今日はやけに涼しい。
熱い茶が美味しく感じる。

「…そうだな。」

やけに間を空けてからのんびりとした答えが返ってきた。
これという会話もないので、そのまま弁慶は黙した。
すると、さわり、と尻を撫でられる。
眉をひそめて

「こら。」

弁慶が振り返ると、悪戯っぽく笑んだ瞳とぶつかる。
後ろで寝転がっていた九郎が、いつのまにかすぐ背後まで来ていたのだ。
そのまま、細い腰に縋りつく。

「…何をしているんですか」

呆れたように言う弁慶に、九郎は黙ったまま頬をすり寄せている。

「もう…」

くす、と笑いながら、弁慶はされるがままになっていた。
茶の入っていた湯のみを脇に置くと、空いた手を九郎の頭に乗せる。

「犬みたいですね。」

くすくす笑って、撫でてやる。

「…失礼な奴だな」

「そう思われるような行動をとっているのは誰ですか?」

弁慶の言葉に、むぅと膨れながら。
それでもくっついている。

「……みんなは?」

腰に顔を埋めているため、くぐもった声が聴こえた。

「この雨のなか、鎌倉散策だそうですよ。景時が、雨の鎌倉も綺麗なんだとか言ってましたっけ。」

「そうか…」

「…知ってて聞いたんでしょう?」

困ったように微笑んで、弁慶が返した。

「別に…」

「…でないと、君はこんな大胆に甘えて来ない。」

ぽんぽん、と九郎の頭を優しく叩いて。
弁慶は微笑んだ。

「雨はな…嫌いではない。」

唐突な言葉に、弁慶が九郎に視線を向ける。

「僕もですよ。」

「しかし、長く続くと少し憂鬱になるな…」

「そうですね」

だから、少し機嫌が悪いのも。
君は太陽みたいな人だから。
心の中で、弁慶はそう付け足す。
あまりにも、長く雨が続いてしまえば…

「子供は元気に外をかけまわっていた方がいいですもんね。」

弁慶の言葉に、九郎がぱっと顔をあげて。

「誰が子供だ!」

「別に…。九郎だとは言っていないじゃないですか。」

さも可笑しそうに弁慶はふふ、と笑った。

「………そう言っているように聴こえた。」

「それはきっと、君が自分を計らずともそう思っている証拠ですね。」

「………」

納得いかない顔で、眉間に皺を寄せている九郎に。

「九郎。」

優しく呼びかけて。
膝をぽんぽんと叩く。

「…なんだ?」

訝しげに視線を寄せる九郎に。

「膝枕、して欲しいんじゃなかったんですか?」

弁慶の言葉に、すぐに嬉しそうな顔になる。
のそのそと這いずって、弁慶の膝に頭を置いた。
その様を見て、弁慶は可笑しそうに笑う。

「……やっぱり、子供じゃないですか。」

「なんとでも言え。」

しとしと、しとしと。
雨はまだ止まない。
だけども、こうして太陽みたいな君の機嫌が直ったのなら。

きっと、明日は晴れるだろう。





















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2010/05/26 いなひめ




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