「えへへ~」
少女が笑みを浮かべている。
彼女は誰が見ても接頭語へ”美”の文字を送るだろう容姿の持ち主で、間違いなく人目を引く存在だった。
プラチナブロンドのロングヘアーに紅と翠のオッドアイ。
個々のパーツの出来がカンペキの上、組み合わせまでもが作りこまれているとしか思えない。

しかし今、彼女は自らが持つその容姿でなく別の要因で他人の視線を釘付けにするだろう。

少女が浮かべる笑顔。
それが一番、この場において最大の支配力を持っていた。

…あまりにも緩みきったそれは現在の光景がどこかの物語の1シーンを抜き出したものではないかと思わず勘繰ってしまうほど。
魅力的で懐疑的だった。

「あー」
別の声が、響いた。
まるで完璧だった空間に初めて異を唱えたようにも思えるから不思議だ。
声は少女の胸元から聞こえてきた。

「はいはい、おねえちゃんですよー」
その声に応えるように、少女は自らが抱えていた彼に笑顔を向ける。
淡い色のベビーウェアにくるまれた赤子が無垢な目で姉を見上げていた。

少女自身まだ幼い。だから赤子とはいえど抱きかかえるのも楽ではない。
しかしそんなことは今の彼女を抑えるブレーキにはなりえない。
願い続けてやっと叶った夢。新しい家族。
たったひとりの大事な弟。
彼を抱きしめるのに他に理由などいらないとばかりに、弟を慈しむ少女は若干7歳にして姉バカの称号を至極当然に正面から受け止め

ていた。

「ねーね」
「!? そうですよー」
弟に”姉”と呼ばれた瞬間、少女の背中には一面の花畑が存在した。
顔はさらに緩み、頬が比喩でなく落ちそうなほど。
「ねーね」
「ゆーと♪」
少女は愛に満ちた声で弟の名を呼ぶと、頬擦りするように彼を抱き上げた。
この上なく幸せです、と全身が語りかけます。



「ただいまー」
「あ、パパ! おかえりなさーい」
「あー」
玄関から父親の声がする。
少女の返事に弟も続けて父親にオカエリナサイの挨拶をする。

「急に呼び出されておそくなっちゃた、ゴメン長くお留守番させちゃって」
家用のラフな格好に着替えた父親がリビングに戻ってくると、少女は弟を抱えたままソファーに腰掛ける。
右側にスペースが開いてるその意味を悟った父・ユーノは戸惑うことなくそこに座った。
「ゆーのぱぱー♪」
「あー」
弟を抱っこしたまま、背中から父親の胸に飛び込む。
いかにユーノが細身で女顔であろうと、彼は立派な成人男性。
幼い娘と息子を抱きかかえることくらい容易い。
そのまま娘が望むように、ぎゅっと抱きしめてやる。
「えへへー」
「うあー」
それだけで娘も息子も大喜びだった。二人とも笑顔が溢れている。
家族の温もりは何よりも素敵な贈り物だった。
両親の知らないユーノ、生まれが特殊な少女。距離感が掴めず戸惑った影はもうそこには微塵にも存在しない。
あるのは何もないけど全てがそこにある、素晴らしき家族の光景だけだ。
「うーん、お姉ちゃんになったのにヴィヴィオは甘えんぼさんだねー」
「えー、だってヴィヴィオはユートのお姉ちゃんで、ユーノパパの娘だもん♪」
姉であり娘であることを心から幸せに感じてるという気持ちが言葉の端から容易に滲み出ている。
「そうだったねー」
それが理解できるから、ユーノは娘を抱きしめつつ頭を撫でてやるのだった。

大好きな弟を抱きしめながら大好きな父にぎゅっとしてもらってなでなでしてもらう。
ヴィヴィオは今、至福だった。



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