今回はいつもの365日お題ではなく、ついったお題から3本。全てひっつく前のゾロナミです。


01:雨の中にただ佇んで


「風邪引くぞ」

男の声に、ナミはゆっくりと顔を上げた。

海の真ん中で錨をおろし停泊しているサニー号は、波にゆらゆらと揺れていた。
満月のはずだがどんよりとした雲がそれを隠し、しとしとと静かな雨が甲板に降り注いでいた。
ナミはブランコに腰かけてキィ…と鳴らしながら、近づいてくるゾロを無言で見つめた。
とっくに日付も変わった時間帯では、甲板上には誰もいなかった。
夜遅く、そして朝早くキッチンにいるサンジも今はもう男部屋で休んでいる。

「どうした」
「別に?」
「びしょぬれじゃねぇか、中入れよ」
「いいの」

一体どれほど前からここにいたのか、小雨の中、ナミの服も髪もぐっしょりと濡れて張り付いている。
ゾロは正面に立つと、ブランコのチェーンを両手で握ってナミを見下ろす。

「何かあったか」
「…別に、夢見ただけ」
「……どんな」
「心配しなくても、嫌な夢じゃないわ。懐かしい夢よ」

悪夢でも見たか、と心配そうな顔を見せるゾロに、ナミは微笑んだ。
それから俯くと、ぽつりと呟く。

「ビビの夢を見たの」

青い綺麗な髪をした、砂漠の国の王女は今頃どうしているだろうか。
夢で逢った彼女は笑っていた。
伸びた髪は相変わらず綺麗で、まっすぐ見つめてくる目は相変わらず強かった。
もしかしたら今この船に乗って共に旅している可能性もあった。
だが彼女はここにはいない。
たとえ遠く離れようとも仲間であることに変わりは無い。
解っているし、いつかきっと彼女に再会する日は来るだろう。
それでも、目覚めて彼女がここにいないことを実感して、そうして外ではあの日のような雨が降っていて、それを見ていたら、

何だか無性に寂しくなったのだ。

「楽しい夢だったのよ。だから大丈夫」

ゾロは何も言わず、腕に巻いた手ぬぐいをほどくとそれでナミの顔をごしごしとこすった。
手ぬぐい自体も雨に濡れてしっとりしていたが、構わずに拭いてからまた腕に巻きなおす。
ナミは少し乱暴なその動きに抵抗はせず、されるがままになってゾロをじっと見つめていた。

「なによ、どうせすぐまた濡れるわよ」
「気にすんな」
「……あんたは部屋に戻れば? 夜明けまではまだあるし」
「お前が戻るんなら、戻る」

ゾロはそう言って、また両手で鎖を握ると首を逸らして夜空を見上げた。
霧のような雨粒を肌に感じながら、それから顔を戻してナミに笑いかけた。

「たまには雨に打たれるのも悪かねぇ」
「……風邪引いても知らないわよ」
「そんなヤワじゃねぇよ。気ぃ済むまでここにいろ」

結局二人は雨が止むまでそこにいて、朝一で風呂を使いクルーたちから揃って疑惑の目を向けられたのであった。


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marikoの寿命が延びました(笑)。



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