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「立ちなさい」



 憔悴しきった彼はかつてボンゴレの右腕と恐れられた勇ましさは見る影も無く、『契約』で意識を乗っ取り操るのはおろか、少々巧みに耳元で囁くだけで簡単に言いなりになるだろう。

 虚ろな緑眼、生気の失せた白い頬、表情をのせない唇。

 彼は黙っているほどに美しい人間――口を開かなければ、という典型例であったが、骸は彼で人形遊びをしようと思ったことは無かった。



「僕は君の神にはなれません」



 けれど一時的な救済を与え、偽りの世界で生かそうとも思わなかった。



「主人にも」

「上司にも」

「恋人にも」

「友人にも」

「家族にも」



「誰かの代わり、にはなりませんよ」



 まして、敵の姿をを重ねられるのは我慢ならない。

 (僕は僕でしかない。)



「立ってください」



 そして命令は懇願に変わる。



「君も君でしかない。誰かの代わりにはならない。誰も代わりにはなれない」



 彼もまた弱いけれど、守る強さを知っていた。

 待ち望んでいる人間を切り捨てられない優しさももっていた。



「獄寺隼人くん」



 手は差し出さなかった。



「……骸、」



 ゆっくりと、けれど、しっかりと。



「覚えてろよ」



 立ち上がって言う、不穏にして不敵な台詞。

 泣きそうだった一瞬は、見ない振りをする。



「ええ、お礼を楽しみにしていますよ」



 永遠に続く合わせ鏡の中に立つ自分を、互いに睨みつけた。






















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