井ノ原+?



「え、」
 腰を浮かした拍子にボロボロと机の上からこぼれ落ちたのは、いくつもの小さなオレンジ色のかけらたち。
 今日の夕飯にと袋を開けた『柿の種』。
 結局1/3ほど食べたあたりで喉が渇き、一気に流し込んだ麦茶で腹が膨れたためにそのまま放置され、今に至る。
 散らかった机の上でPCや書類に端へ端へと押しやられた挙句、たまたま肘でもあたったのだろう。
「あ…!あ、あ〜!」
 先ほど掃除機をかけたばかりの床に散らばるオレンジはなんとも悲しい。
 どうしたの、と耳元で聞こえた声に、井ノ原は携帯で通話中であることを思い出した。
「ごめんごめん、ちょっとバタバタしちゃって」
 言いながら、ベランダに出る。夏の終わりを告げるような冷たい夜風に、観葉植物の葉が揺れていた。
「で、どっちだっけ?……え、西?なに、駅の方?」
手すりから身を乗り出して、きょろきょろ遠くを眺めていると。


――――ドンッ、


 夜空の片隅に小さな光が浮かび、遅れて腹に響く低音が聞こえてきた。
 打ち上げ花火だ。
 それは、一定の間隔でいくつもいくつも花を咲かせる。

「あ、あ、見えてる見えてる!」
 嬉しくなって叫ぶと、耳元からも同じ花火を見ているのだろう、嬉しそうな声がする。
「すげー、こんな時期に花火大会なんてあったんだー」


空に散らばる光たち。
 その輝きは、一瞬で闇に溶けてしまう。


「もう夏も終わるんだなぁ」


 なんだか切ない、だけど決して嫌いじゃないこの感覚。
 オレンジの光を眺めながらしんみり呟くと、何似合わないこと言ってるんだ、と笑われてしまった。


終。

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