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【ある昼下がり】


 テラスの白い小さなテープルの上、ティーセットが微かに振動した。
 小さな訪問客。
 彼女はそのお客さまに対して、微笑んだ。
 大きなふわふわとした尻尾が特徴のお客さまは、裏山の森に生息しているリスだった。
 可愛らしい二つのつぶらな瞳が彼女を見つめ返してくる。頬をむずむずさせている。何かもらえないかねだっているようだ。
 彼女は小さなお皿からナッツを二粒、テーブルのリスの目の前に置いてやった。
 リスは三秒ほど瞬きをしつつ鼻をくんくんして、これは食べても大丈夫か伺う。
 それから一つを両手で包み込み、がりがりと食べ始めた。すぐにリスの頬はぷくぅ〜と膨らむ。
 とてもほほえましくて、彼女はまた口元をほころばせた。
 今日は、とっても良い日だ。
 お天気は良いし、暖かくて心までぽかぽかしてくる。
 こんなに可愛いお客さままで彼女のところに遊びに来てくれたのだから。

 しかし、彼女は知っていた。
 これは、これから何かが起きるという予兆であることを。
 晴れた日はいつまでも続かない。太陽もいずれは沈んでしまう。
 これから起こるであろう、恐ろしいことを、彼女は感じ取っていた。
 それでも、彼女には待つことしかできないのだ。誰かがやってくることを、ただ、じっと。

 少しぬるくなってしまったミルクティーを口に含む。彼女はミルクを多めに入れるのが好きだった。
 
 ぽつん、ぽつん
 
 と、冷たい水玉が空から降ってきた。
 お客さまであるリスはもう一つのナッツを抱え、一目散に森へ帰っていく。
 その様子を見て、彼女は少し寂しくなった。
 それでも。

 それでも、明けない夜がないように、やまない雨もまた、存在しない。
 希望の先には絶望が。
 絶望の先には希望が。

 そうやってこの世界は成り立っているのだ。そのことを、彼女はよくわかっている。
 ふと、彼はどうしているのか、気になった。
 この雨の下、寒そうに肩を縮めて。

 雨に濡れていないか心配した家臣たちが、彼女のいるテラスに向かって走ってくる。
 彼らの声も聞こえない振りをして、彼女は空を振り仰いだ。
 
 空は泣いているのに、太陽は微笑んでいた。
 泣き笑い、そんな言葉が彼女の頭に浮かんだ。自分にぴったりな言葉。
 だって今私は、泣きながら笑っているのだもの。
 頬を伝うその液体は、涙なのかはたまた雨の雫か。
 本人にもわからないけれど、笑いながら泣いているのはたしか。

 そうね、忘れていたわ。
 彼はもう、存在していないのだもの。
 だって――――――










 その先は、誰も知らない。



















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