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「あー、みゆきー!」



ふわふわと、まるで毛玉が飛び跳ねるような甲高い声が鼓膜を震わせる。
歩行者用の信号が赤に変わり立ち止まった御幸がその声の方へ顔を向けると、交差する道路の向こう側から、何やら小さな物体がてこてこと駆け寄ってくるのが見えた。


「おー、栄純じゃん」


その姿を捉え、御幸はくしゃりと表情を崩す。
「さわむらえいじゅん」と書かれた名札のついた水色のスモッグを身に纏い、紐でくくった黄色い帽子を風に揺らしながら走ってくる幼い少年は、はぁはぁと息を切らしようやく辿り着いた御幸の足元でもう一度彼の名を呼ぶ。
それに応えるように、御幸はにぱりと花の咲いたような無邪気な笑みを向ける少年の黒い髪をわしわしと撫でてやった。

「今帰りか?」
「おぅ!みゆきは?」
「俺も今帰りー」

そう答えればいっそう嬉しそうに破顔してみせる少年が愛おしくて、目線を合わせるようにしゃがみ込むと大きな瞳が真っ直ぐに自分に向けられる。
一緒だな、なんて言いながら二人で笑い合っていたら、隣に立っていたクラスメートが何やら含みのある目で自分達を見ているのに気付いた。

「ヒャハッ、御幸ィ」
「…何だよ」
「テメェのガキか、それ?」

面白いネタを見つけた、とでも言うように、倉持が口元に手を当てながら意地の悪い笑みを浮かべる。万が一それが事実であろうものなら明日朝一で学校中に言い触らしてやろう、なんていう級友の判りやすい意図を押しやるように御幸は一つため息をついた。

「バーカ、んなわけあるかよ。コイツはただの隣ん家の子供」
「何だよ、オメーの隠し子じゃねーの?」
「そんな面白れーことがあってたまるか」
「へぇ、つまんね」

期待外れだと言わんばかりにんべ、と舌を出す倉持を一瞥してから、目の前で不思議そうに二人のやり取りを見つめていた栄純に向き直る。
家が隣同士で生まれた時から弟のように可愛がってきたその少年は、いつだったか野良犬に追い掛けられて泣きながら自分に飛び付いてきた時と同じように、御幸の服をきゅ、と握って怯えたような顔で倉持の顔を見上げた。

「…なーみゆき、ソイツだれ?」
「ソイツ…?!」
「あー、ガッコーの友達だよ。倉持っての」
「くらもち?」
「テメ、年上に対してソイツ呼ばわりの挙げ句呼び捨てたぁ、なかなかふてェヤローじゃねーか…!」
「…倉持、お前ちょっと黙ってろ」

子供相手に本気で殴り掛かろうとする倉持を軽くいなして、ビクリと身体を強張らせた栄純を宥めるように頭を撫でてやる。
上下関係を知らない子供という点を抜きにしても、栄純に対してそういう注文を付けるのははっきり言って無駄だ、と御幸は一人苦笑する。何せこの少年は、未だに「みゆき」が自分の下の名前だと思い込んでいる愛すべきおバカさんなのだから(御幸が名字で名前は一也だから!と何度説明してもどういうわけか全く覚えてくれないのだ)。


「…栄純、今日は幼稚園でなにして遊んだんだ?」
「っ!あ、あのな!みんなで野球やった!」
「ほー、野球か」
「そう!みゆきとおんなじ野球!」
「ははっ、そうだな」

話を変えるように尋ねてみれば、栄純は途端に顔を輝かせてたどたどしくそれを伝えようと言葉を繋げる。
その一生懸命な姿が何とも可愛らしくて、御幸が自然と頬を緩ませながら相槌を打つと栄純もへへへ、と嬉しそうに笑った。
仮にも名門校に通う自分の厳しい練習と幼稚園児である栄純のお遊びを「同じ」と言われてしまうのは些か割に合わないけれど、脳裏に浮かんだ光景がえらく微笑ましくて、そこに栄純がいるというだけで何だかひどく魅力的なものに思えてきて。
俺も一緒にやりたかったなー、と思わず呟いたら、すかさず後ろから倉持の大きな舌打ちが聞こえてきた(もちろん無視してやった)。

「ピッチャーやったんだぞ、おれ!」
「おー、そりゃすげぇな」
「うん!おれ、いつかみゆきと一緒に野球するんだ!」

満面の笑みで告げられたその台詞に、御幸は一瞬クラリと眩暈を覚えた。
力強い瞳が湛える真っ直ぐな誓いは容易く御幸の心臓を射抜く。
まるでプロポーズされてるみてぇだな、なんて思ったららしくもなく頬に熱が集まって、そんな自分に少なからず動揺してしまった。

「…そうだな、そしたら栄純がピッチャーで俺がキャッチャーか」
「おぅっ!」
「じゃーこれからしっかり練習しねぇとな」
「うん!いっぱいれんしゅーするー!」

ぶんぶんと短い両手を振りながら楽しそうに笑う栄純が可愛くて、その小さな身体をひょいと抱き上げ頬擦りをする。途端にはなせー!だのおろせー!だのと暴れ出したけれど、そんなのはいつもの照れ隠しだとわかっているから気にしない(それよりも今は後ろにいる倉持の視線の方が痛かった)。




「…栄純!」

と、そこで再び聞き覚えのある声が聞こえて一瞬彼らの動きが止まった。
そちらに目をやると、先程栄純が駆けてきたのと同じ方向から、栄純の母親がどこか慌てた様子でこちらに走ってくる。
どうやら栄純は随分と遠い場所から自分を見つけて飛んできたらしい。母親の更に後ろには栄純の友達らしき園児を連れた女性が歩いてくるのが見えて、恐らくは談笑しているうちに見失ってしまったのだろうと思い至る。
苦笑しながら御幸が会釈をすると、歳の離れた姉のような存在である若い母親は安堵したようにごめんね、と顔を綻ばせた。

「もう、いきなりいなくなるから心配したじゃないの!」
「だってー、みゆきがいたんだもん!」
「一也くんのせいにしない!ほら、早く下りなさい!」
「やーだ!」

先程とは打って変わってぎゅう、と首にしがみついてくる栄純が可愛くて仕方ない。とは思うけれど、叱られる時はきちんと叱られるべきだ、と御幸は栄純の身体を簡単に引きはがし足元に下ろした。
途端、母親は沢村家の伝家の宝刀である強烈ビンタ(御幸も幼い頃、イタズラをして何度となくお見舞いされた)を繰り出すべく栄純に向かって小さく構えを作る。
それを察したのか栄純は慌てて御幸の後ろに身を隠し、恐る恐るといったように様子を窺う彼の愛らしい姿に、御幸と母親は顔を見合わせ揃って苦笑を漏らしたのだった。

「…ごめんねぇ、一也くん。いつも迷惑掛けちゃって」
「いやいや、大したことないっスよ」
「…ほら栄純、もう怒んないからこっちおいで。帰ってアイス食べるんでしょ?」
「いやだ、みゆきと一緒にかえる!」

未だ御幸の後ろに隠れたまま、栄純がぷるぷると首を振って駄々を捏ねる。子供らしいその姿がまた御幸の心を遠慮なく鷲掴みにして離さなかったけれど、じゃあ手ぇ繋いで帰ろうか、と御幸がそう口を開こうとした所で背後から制止を掛ける無情な声が響いてきた。


「オイ御幸」

「………あー」


殺意すら感じさせる倉持の鋭い声に御幸はようやく自分達の状況を思い出して、ため息の代わりに不満を湛えた声でそれに答える。
急かすように制服のズボンを引っ張る栄純の頭にポンと手を乗せて、またしゃがみ込み彼と目線を合わせると言い聞かせるように優しく言葉を紡いだ。

「…ごめんなぁ、栄純。俺これから倉持の家に行かなきゃなんねーんだわ」
「…一緒にかえれないのか?」
「悪いな、後で栄純ち遊びに行くから」
「…ん」

ひどく残念そうに、渋々頷いた栄純に心が痛むのを感じながら、そのまま俯いてしまった小さな頭を慰めるように撫でてやる。
母親の呼び掛けに今度は素直に応じた栄純が今にも泣き出しそうな顔をしていたのがチラリと目に入って、何でこんな時に限って倉持なんかと約束しちまったんだろう、と自分を呪ってやりたくなった。

「じゃあな、栄純」
「………」

母親の足にしがみつきながら、御幸が声を掛けると栄純は拗ねたように唇を尖らせながら小さく手を振ってそれに答える。
ちゃんと口でばいばいって言いなさい、などと母親が栄純を小突いてみても頑なに声を発しようとはしなくて(それでも小さな左手をぶんぶんと振ってみせるあたりが本当に可愛らしい)、御幸が思わず苦笑すると傍らの母親も困ったように笑みを浮かべた。


「栄純、バイバイ」


もう一度そう声を掛けて、御幸自身惜しみながらゆっくりと栄純に背を向ける。
ちょうど目の前の信号は青に変わったばかりで、早速ぐちぐちと文句を零し始めた倉持と共に、御幸は自宅とは違う方向へと足を持ち上げた。


「…テメェよぉ、今までに何回信号変わったと思ってやがんだ」
「悪かったって。つかいちいち数えてたワケ?うーわ倉持くんヒマ人ー」
「誰のせいだゴルァ!」

なんて、いつもと変わらないやり取りを繰り返しながら、意識は未だ後ろに立つ栄純から離れない。
あんな顔をさせてしまったお詫びに、帰りに栄純の好きなヒーローものの食玩を買っていってやろう。あげたらきっと一緒に遊べとねだられるだろうけれど、栄純のおかげで自分もかなり詳しくなってしまったから問題はない。卑怯な手段かもしれないが、栄純の機嫌が直るなら何だってよかった。

(そうだ、プリンも買ってやろう)

実の弟か、それ以上に可愛く思えて仕方ない少年の無垢な笑顔を思い浮かべながら、御幸はふと隣で口笛を吹く倉持に目線を向ける。

「なぁ倉持、お前んちの近くにコンビニって……」


「みゆきーーーっ!!」


「っ!」

御幸の言葉を遮るように、突然背後から自分を呼ぶ高い声が響いた。
聞き覚えなどないわけがないその声に御幸はぴくりと身体を震わせて、次の瞬間には勢い良く後ろを振り返る。




「ばいばーいっ!!」




少し離れた場所で大きく手を振りながら、満面の笑みを浮かべた愛しい子が叫んでいる姿が振り向いた御幸の目に飛び込んでくる。
先程のしょんぼりと沈んでいた表情など見る影もない、頭の中で思い描いたそれよりも遥かに輝いた笑顔がそこにあって、普段ならば常人よりもわりかし大人しいと自負する御幸の心臓がドクリと生々しい音を立てて飛び跳ねた。


「っな…!」

「へへへー!」


あんぐりと口を開けた御幸の顔を見てしてやったり、とばかりに笑い声を上げると、栄純は先に歩き出した母親の背中を追うようにてこてこと走っていってしまった。


(…アイツ…!)


ふわふわと揺れるスモッグが少しずつ遠ざかっていくのを見つめながら、御幸は思わず崩れ落ちるようにその場にしゃがみ込む。
隣を歩いていた倉持がまた不満そうに愚痴を飛ばしてきたけれど、そんな声も耳に入らないくらいに心臓がバクバクと高鳴っていた。


(それは…反則だろ…!)


震える手で慌てて口元を押さえる。そうでもしないと今にもツゥ、と鼻血が伝ってしまいそうだった(押さえた所で出るものは出るのだからあまり意味はないのだけれど)。
どれだけ自分を夢中にすれば気が済むのだ、あの小悪魔のような無邪気な天使は。
ただでさ
えいつも理性を総動員させ我慢しているというのに、時々ああやってまるで自分を試すような爆弾を仕掛けてくれる。そもそも栄純をただのお隣さんだとか弟のような存在として見ることが出来なくなったのだって、元を辿れば栄純の可愛すぎるその言動や行動が原因なわけであって。


…あぁクソ、今に見てろ。
今のうちに付け込んで刷り込んで、気付いたら俺しか見えなくなるくらいベタベタに惚れさせてやる。


「………倉持」
「あン?」

訝しげに自分を見つめていた倉持に、視線は前に向けた同じ体勢のまま声を掛ける。




「俺、いつかぜってーアイツを嫁にもらう…!」


「……あっそ」


最早諦めたような倉持の相槌を遠く聞きながら、御幸は「とりあえず後で栄純に逢ったらどさくさに紛れてキスの一つもしてやろう」などと、誰にともなく邪な誓いを立てるのだった。













――その翌日、倉持の手によって学校中に

「御幸はショタコンである」

という噂が流れたのは言うまでもない。












(ただし栄純限定でな!)












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元ネタは実体験から^^^
天然小悪魔ってホント恐ろしいなと思いましたw


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