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たまにはいいじゃん (「庭球王子の放課後に20のお題」より)
いつも通りの日々は、時折思わぬ変化を見せる。
それはありふれた下校時のこと、帰りの電車を待っていたら、ふいにホームで懐かしい顔に出会った。
去年同じクラスだった跡部だ。
向こうもこちらを見つけたらしく、気軽に声をかけてくる。
「よお」
「うん。……うん?」
一度は素直に受け入れたものの、思わず二度見してしまった。
だって初めて見る光景だもの。車での送迎が当たり前の跡部が、電車で帰ろうとしているなんて。
しかも1人で! とっても目立つ大きな樺地くんがいない、まったくの1人きりで!
車は? 樺地くんは?
怒涛のように巻き起こる疑問は、素直に顔に出ていたようで、呆れたような苦笑いという複雑な表情で、跡部はそれに答えてくれた。
「今日は車の調子が悪い上、代車の当てもなくてな。しかも樺地は風邪で休みだ」
「樺地くんが休みって珍しいね」
「普段病気にならない奴が休むってことは、それだけ具合が悪いんだろうよ」
確かに、病気のイメージがない力強い人が寝込んだと聞くと、かなりの重症が思い浮かぶ。
とはいえ、そういう人は回復も早そうだけど。まあ、実際の状況を知らないわたしが想像で語っちゃいけないけど、跡部の様子を見るに、念のため大事を取らせたってとこだろうな。この人、俺様な見た目と言動に反して、実は結構気遣う人だから。
「まあ、たまにはこういうこともあるよ」
ドンマイ、と我ながらよくわからない励ましを送る。
でもイレギュラーな出来事って、地味に精神を削るからね。これが試験や試合の時じゃなくてよかったと思うよ。
そんなことを伝えると、跡部は今度は、呆れ顔の後に穏やかな笑顔を見せた。
思いがけない表情がもたらす衝撃が、わたしから言葉を奪う。
ただただポカンと口を開ける醜態をさらしても、跡部の微笑は消えなかった。
「車の調子が悪い、樺地がいないで最悪の日だと思ったが、代わりにおまえに会えたなら、案外いい日かもしれないな」
こういうのもたまにはいい、と満足そう。
楽しそうで何よりですが、何が楽しいかは、いまいちピンと来ない。
わたしはしばらく考えて、
「ああ、普段見ない人間に会ったら、ある意味特別感はあるか。クラス離れたら、全然会わないもんね」
しみじみ言うと、たちまち跡部は100%全開の呆れ顔になってしまった。
あれ? わたし何かおかしなこと言った? ていうか、さっきからわたしに対して呆れてばっかだよね?
行き違いを感じて戸惑うも、なぜか彼はニヤリと笑い、
「まあ、今はそれでもいいさ」
そう言うと、大きな手で優しく頭を撫でられた。
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