『桜の咲く前に〜はじめての帰り道〜』







「せんぱいっ」
 淡いブルーのバッグを抱えて水都が走ってきた。
 ついさっき卒業式が終わったばかり。
 最後のホームルームも終了し、校内は喧騒に包まれている。
 遊は同級生の女子はもちろん後輩たちの目をかいくぐって裏門近くに隠れていた。
 軽く手を振って、水都を迎える。
「ねぇ本当にいいの? クラスで打ち上げとかあるんじゃないんですか?」
 今日遊の彼女になったばかりの水都は心配げに見つめた。
「ん? いいのいいの。せっかく水都と付き合えることになったんだし。最後に学生っぽいことしておきたいだろ」
 ぽかんとしてしまうほどの笑顔で言って、遊は水都の手を握った。
 とたんに顔が真っ赤になる水都。
 それを見て、遊はきょろきょろあたりを見回す。
 人気のないことを確かめている遊に不思議そうに水都は首をかしげた。
 と、遊の顔が近づいてきて、頬にその唇がほんの一瞬触れた。
「………っ!?」
 頬を押さえ、さらに顔をトマトのように真っ赤にさせる。
 遊はにこにこしながら水都の手をひいた。
「さ〜帰ろう」
「せ、せんぱい〜!?」
 突然のことにびっくりする水都にかまわず遊は歩き出した。
 裏門からの通学路は坂道になっている。
 春になると桜のきれいな道。
 まだつぼみもついていない木々だが、木漏れ日がとてもきれいで、坂道をきらきらと輝かせていた。
 繋いだ手がとても暖かくて、心地いい。
「なんだか不思議」
「ん?」
「だって……。今日で先輩とお別れなんだーって思ってたのに」
 地面に視線を落として呟く。
 眠れなかった夜はほんの半日前なのに、まるで遠い昔のことのようだ。
 自然と頬が緩む。
 目を細めて傍らの遊を見上げる。
「先輩と手を繋いで、帰れるなんてぜんぜん思ってもみなかった」
「うれしい?」
 悪戯っぽく水都の目を覗き込むその瞳はとても優しい。
 笑いながら水都はぎゅっと手を握り締めた。
「うん。とっても!」
 遊は目を細めた。
「まぁ、俺は帰りは水都と帰るってわかってたけど」
 けろっとした表情で遊が言った。
「もうっ。先輩ってなんでそんなに自信満々なんだろ」
 思わず苦笑がもれる。
「そりゃモテルから?」
 あっさりとした言葉。
 呆れたように遊を見上げ。目が合う。
 そして数秒して、笑顔がこぼれた。
 





 最初で最後の二人での帰り道はずっと笑い声がたえることはなかった。

















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めっちゃ短くてすんませんっ。なんか中途半端ですが(笑)
それもご愛嬌ということでv
これからもどうぞよろしくお願いします(*^-^*)

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