拍手SS//ユーリ・ローウェル 「その笑顔が見たかったんだ」 (TOV/ユーリとフレンの幼馴染)    



「フレン」

 騎士団を辞め、シゾンタニアの門まで見送りに来てくれていた幼馴染と言葉を交わした後、俺は改めて名前を呼ぶ。

 フレンは「何だい?」と、配属された時よりも穏やかな声色で応える。

 俺は目の前に広がる、もうエアルの影響を受けていない静かな森に目を細める。

「俺……何度もあいつの顔が浮かんだよな」

 夜空に浮かぶ星を見上げる度に、死ぬと思った瞬間に、隊長を見送った時に。

 あいつの、俺達が騎士団に入った時に笑顔で見送ってくれた、下町で帰りを待っていてくれている大切なもう一人の幼馴染の笑顔。

 今も目を閉じれば、「ユーリ」と嬉しそうに呼んでくれる笑顔を思い出せる。

 町を吹き抜ける風が頬を撫で、俺の長い髪を静かに揺らしていく。

 その時、爽やかな風に乗ってあいつの声が聞こえた気がして、ゆっくりと目を開いた。

「僕もだよ、ユーリ」

 黙っていたフレンが背中を預けていた壁から離れ、俺の横に並ぶ。

 俺達は、帝都のある方向を真っ直ぐに見据える。

「何度も思い浮かんだ。そして、その度に強く彼女を失いたくないと思った。すぐにでも会いたくなったよ」

「ああ」

「彼女に関しては、僕達はライバル同士だ」

「そうだな」

「でも、今回は君に譲るよ」

「!」

 目を少し見張り、幼馴染に視線を向ける。

 俺とフレンは互いの足りない部分を補いながらも、譲れない自分の信念の為に何度も衝突してきた。

 あいつに関して例外ではなく、好きな女のことでは一歩も引かなかった。

 こいつの言った「譲る」には、どういう意味が含まれているのだろうか。

「恋を諦めるわけではないからね、ユーリ」

「……分かってるよ」

 一番あってほしいと思っていた、だが絶対に無いだろうという選択肢を真っ先に排除された。

「さっきも言った通り、僕は騎士を続ける。だから、すぐには帰れない。彼女を傍で守ることが出来ない」

「…」

「だから、今回は君が守ってくれ。僕が帰るまで」

「お前に言われなくても守るよ。つーか、お前が帰ってきてもずっと傍に居てやるから安心しとけ」

「後者は必要無いけど頼んだよ、ユーリ」

「ああ」

 俺達は視線を交わし、口元に笑みを浮かべる。

 空を見上げれば、窓一つ無い透き通った気持ちの良い青空が広がっている。

 爽やかな風が背中を押してくれた気がして、移動の準備で賑わう人々の声と木々の揺れる音を背中で聞きながら、幼いラピードと共に足を踏み出した。



 長い道のりを徒歩や馬車などを利用して進み、そして。

「――よう、久しぶりだな」

「!」

 俺の声に、スカートと共にふわりと揺れて振り返る、俺と同じ長い黒髪。

 大きく見開かれる宝石のように輝く、綺麗な黄金の瞳。

 たった数ヶ月離れていただけなのにとても懐かしく感じ、身体の奥から湧き上がる感情に胸が震える。

 きっと、出発前にフレンと話したせいだ。

 だからこんなにも愛おしく、強くこう思うのだろう。



「おかえりなさい、ユーリ!」


 
俺は、お前のその笑顔がずっと見たかったんだ。



(俺、やっぱりお前がいないと駄目だわ。フレンと二人きりで痛感した)

(そんなこと言ったら、フレン怒るよ?でも……私も。ユーリ、貴方にずっと会いたかった)



(2014.9.9 // 確かに恋だった様よりお題をお借りしております)



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