ありがとうございました!










「あぁ、いい天気ですねぇ」
「本当だねぇ」


 野原に転がる二人は、ほぼ同時に大きなあくびをした。
 季節は春も少し過ぎた頃。
 少し暖かすぎる気温も、時折吹くさわやかな風が和らげてくれる。
 野原には花が所々に咲いていて、風に揺られてフワフワとかわいらしく揺れていた。


「のどかですねぇ」


 ふぅわりと、長めの白髪を風に靡かせながら、まだ幼い声が言う。


「そうだねぇ」


 それに暢気そうに答える声は、こちらは青年期に入ったところといったニュアンス。
 深い森を思わせる髪を、野原の草花に溶け込ませようとするかのように散らし、真紅の瞳を愛しむ様に細め、白髪の靡く様子を眺めていた。


「私、この季節が一番好きですよ」
「だよねぇ。君は昔からそうだったよねぇ」
「あなたは、秋、でしたっけ?」
「そうだねぇ。僕もこの季節は好きだけどね。まぁ、食べるものが何でも美味しく感じるから、秋かなぁ」
「あなたらしいですね」


 まだ変声期すら迎えていない幼い声は、少女とも少年ともつかない。
 しかし、舌ったらずという印象は無く、寧ろ話し相手である青年と同じかそれ以上の年齢を思わせる話し方だ。
 ふぅわりと微笑んだ、その細められた瞳の色は、綺麗なアイボリー。一瞬見ただけでは白目と瞳との判別も覚束ない異形の瞳だった。
 見るものの大半が驚くであろう、その大きな瞳が一対埋め込まれている顔は、声を裏切らずにまだまだ幼い。
 白く、透き通るような頬に、青年はそっと手を伸ばした。
 軽く触れた指先に、子供特有の柔らかく張りのある感触が伝わり、青年の顔は自然と綻ぶ。
 愛しそうに、微笑む青年の、己の頬に触れられた手を、そっと白い小さな手が包みこんだ。


「でも、私も好きですよ」
「うん」
「食べ物も美味しいし」
「そうだね。食いしん坊な君の好きな果物がいっぱい成るしね」
「ええ、そうですね……あれ? その台詞、あなたに言われたら、私、色々終わっちゃた様な気がするんですけど」
「気のせいだよ」
「そうですかねぇ……」


 むぅ…と少し膨らませた、その白い頬を、青年は笑いながら指でつぶす。
 そんな、大人が子供をからかうかの様な動作に、渋面してみせるが、青年はカラカラ笑うだけだった。


「子供扱いしないでくださいよ」
「ごめんごめん」
「確かに、あなたの方が体は大きいでしょうけど、私、コレでもあなたより年上ですよ? 忘れてません?」


 軽いため息と共に吐き出された言の葉に、青年は苦笑するように笑う。


「忘れてない忘れてない。可愛い弟分を怒んないでよ? お兄ちゃん」
「……あなたの口から「お兄ちゃん」なんて呼ばれると、ものすごく変な気分になるますね」
「僕としても、外見が自分より一回りも年下の子供を「お兄ちゃん」って呼ぶのはかなり違和感があるよ」
「お互い様って奴ですか」
「そうだね。それに、年上って言っても、たかが一、二年じゃないか」
「それもそうですね」

 クスクスと、二人は笑いあった。
 そんな二人の間を、のどかな春の風が吹き抜けていった。
 

 




 オリジナル。
 いつかキチンとかければいいなぁ……



 




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