ありがとうございますv
お返事は日記にてさせていただきますねv
*エリちびSS。
本編終了後。
捏造設定に基づいて書いています。
My設定が多用されている上説明くさいですが、それでもいい方はどうぞv
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「踊ろう、エリオス」
スモールレディが持参した小さくて瀟洒な箱をそっと開いた。
そこから、シンプルな高音が重なって織り成す音楽が軽やかに始まる。
Pas de deux
前世、まだこの神殿が地球国―――ゴールデンキングダムの深層に機能していて、国は栄えていて、
王子エンディミオンやたくさんの人々がエリュシオンで暮らしていたころ。
現世と変わりなく前世でもエリオスは王子と心身がリンクしていて、エリュシオンの守護祭司だった。
前世では周りに人がたくさんいた分、エリオス自身もやんごとない身分で無二の存在で、
だからいつどこに出ても恥ずかしくない程度の礼儀作法は仕込まれていた。
その記憶を持ったまま現世に生を受けたので、今もエリオスの物腰は優雅だ。
しかし―――社交の場に出る役割ではなかったので、社交的な手段としての芸術やスポーツの類はからっきしなのである。
「あ、……すみません。僕は踊りは―――」
「音楽を聴きながらユラユラするだけでいいの」
オルゴールを大理石の床にそっと置いて、スモールレディがドレスを軽くつまんで広げ、優雅にお辞儀をする。
そして、やわらかな仕草でエリオスに手を差し伸べた。
反射的にエリオスも、こちらもやわらかな物腰で一礼する。
そして、おずおずと差し出された手をとった。
スモールレディは時々こうして時を超えて、30世紀の水晶宮から20世紀のエリュシオンへ―――エリオスに会いに来る。
それは幾重にも禁じられた行いで、いつまでも続けていられないとわかっていながら、
だからこそふたりにとってかけがえのない、手離しがたい時間になっていた。
今日やってきたスモールレディの手には、繊細な木彫り細工の小さな箱が納まっていた。
底のぜんまいを巻いて蓋を開くと単純な高音が何重かに重なった音楽が始まる。
30世紀という、ここから約1000年の差を感じさせない、古典的なオルゴールだった。
「ママからもらったの。育子マ―――お祖母様にもらったんだって言ってた。
30世紀にもオルゴールはあるけど、あたしはこれが一番好きなの」
少し遠い目で嬉しそうに笑いながら、そう教えてくれた。
* * *
硬質な音が重なり合って、柔らかく愛らしい音楽が真っ白い神殿に流れる。
小さく、頼りなく、やさしく。
青空の下、白い衣を翻しながら、
楽譜にするとわずか2段ほどをリピートし続ける音楽にあわせてふたりが揺れる。
スモールレディに促されてドギマギしながらも、そっと彼女の腰を抱き寄せて、
そしてもう片方の手をつないで。
エリオスは最初はとまどったが、生まれながらのプリンセスとして教育されてきたスモールレディのダンスの技術は長けていて、エリオスの緊張をほぐすような微笑みを向けながら彼を導く。
だんだんとエリオスも安心して力を抜き、スモールレディのリードと音楽に身をまかせた。
エリュシオンの美しい晴天を、雲が流れていく。
ふたりの揺れる影の上を、雲の影がうつろう。
永遠に続くような錯覚を無意識に感じながら、
夢の中にいるような現実感のない心地よさをふたりは共有していた。
徐々にオルゴールの音がスローテンポになっていく。
ふたりのステップもいっしょにスローになっていく。
ちょうど曲の終わり目で、名残を惜しむように、ゆっくりと儚く音楽が終わった。
ふたりの踊りもふわりと終焉を迎えた。
「……終わっちゃったね」
ドレスの裾を軽く持ち上げ、もう片方の手をエリオスとつないだまま、まだ夢から覚めていないようなぼうっとした顔でスモールレディがぽつんとつぶやいた。
「はい…」
エリオスもぼんやりと、そのままの形でぽつりと答える。
ずっとそうしていたくて、動きが止まってもそのままの格好で見つめ合っていた。
ふたりの上では相変わらず、雲が穏やかに流れていった。
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※「ユラユラするだけでいいの」は、
『伊達千蔵』(高橋ゆたか/集英社)という青年男性向け漫画に出てきた表現が気に入ったので拝借しました。
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