「おチビさん♪」

「…煩い…。」

「そんな連れない顔しないでよ、せっかく恋人が来てるんだからさ。」

「お前の声聞いてると耳障りなんだよ。」



‡君の声‡




「兄さん?」

「……アル。」


アルに声をかけられてはっきりと意識が戻る。アイツが来なくなって、はや2週間。最後にアイツに言った言葉は、声が耳障りだと言った気がする、本気で言ったつもりはないけど、アイツは相当傷ついた目をしていたな、もしかして嫌われたか?



「最近よく考え事するようになったね、疲れてるの?」

「いや…そういう訳じゃ…。」


曖昧な表情をしながらも否定する。でもその表情は無意識にアイツのことを思い出してずっと考え込んでしまう、察しのいいアルはすぐにそのことに気付いてしまうかもしれない。否、とっくにもう気付いているだろう。


「…まあいいか、兄さんの自由だしね。」

「別に何にもねぇから。」


(こういう時は買い物に連れて行ってあげればきっと良いよね、錬金術は台所から生まれたっていうことにしておけば、兄さんもきっと一緒に来てくれる。)


アルは渋るエドを半ば無理矢理に宿の近くの市場まで連れて来た。今まさに開かれた市場は大変賑わっており、物を求めて人がたくさん往きかっていた。
これからの旅の仕度ということでここまで来たのだが、ふと見回してみるとエドの姿が無かった。


「たくさん買ったね。あれ……兄さん?」

「……ん…。」


すぐに見つけることが出来たのだが、兄は今が旬の林檎を手に取って見つめている。何やら店の人に説明まで聞いて両腕に溢れるほどそれを買っていた。いつもは絶対に林檎なんて買ったりしないのに。


「…何に使うの?」

「自分で全部食べる。」



 (…嘘ばっかり。)


安いとはいえ旬の林檎を沢山買うわけだ。でも一人で食べるとは思えないほどの量だ。絶対に何かしようとするだろう、例えばお菓子とか、ジャムとかをたくさん作って隣の人に分けてあげたりとか。






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