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ただいまお題を使った小話(全部で5作品)を公開中です。





照れ屋で我が侭な俺様との恋でお題(配布元:Honey Lovesong様)


01 「俺がいるのに他の奴のことなんか考えさせない。」



夕焼けに紅く染まった家並みを二人並んで歩く。
そんな小さなことにすら、この上なく心が満たされる。
ほんの3日前まで、そんな光景はもう二度と手の届かない遠い夢のように思っていたから―――



*********




「琴子さんと、お嬢さんと結婚させてください」


親父のことも、会社のことも、従業員のことも、家のことも、己の婚約者のことも、そのバックにある援助も、
琴子を想う男の存在も、何もかもを振り切って、琴子との結婚の許しを乞うたのは3日前のこと。

勝手極まりない申し出にもかかわらず、琴子の寛大な父親によって許しを得、
この世界で唯一琴子を手中に収める権利を得た。
…いや、たとえ、許しが得られなかったとしても、琴子を自分だけのものにしたい、
この衝動はもう抑えようがなかったから、掻っ攫って逃げていたかもしれない――


昨日は婚約者に頭を下げ、婚約の破棄を申し出た。
彼女の祖父にも詫びを入れ、本当に最低ラインの禊ぎを祓うことはできた。


それでも、琴子の手を正々堂々と取るにはもう一人、正面からけじめをつけるべき人物が残されていることは明白で。


――それは、少なくとも自分よりも長い時間、一途に琴子を想い続けた男。



「琴子、もらうぞ」
「あんたには悪いけど、おれが琴子と結婚する」


寸分の迷いなくそう宣告した俺にむかって、あらん限りの罵倒を浴びせる金之助。
その口から出る言葉などくだらないものと、これまでは右から左と聞き流していたが、
今、この男の口から発せられる言葉に反論の余地などあろうはずもない。

――誰がどう見ても、どう考えても、理不尽な行いをしているのは俺の方。

それでも、目の前のただ一人のこの女を、たとえ地獄へ道連れにしたとしても、二度と手放さないともう決めたから。
だからどんな責めをも甘んじて受けとめる。



*********



「入江!おまえ、琴子を幸せにせなな!!ほんまにほんまに許さへんで!!!
 ちょぴっとでも泣かせてみい!!いつでもオレが待機しとるさかいな!!!」


金之助の精一杯の虚勢とエールを背に、琴子とともにふぐ吉をあとにする。


とりあえず、自らの手で決着をつけるべき相手との対峙を終え、
琴子と自分を隔てるすべてを排除し、むしろ清々しさすらこみ上げる俺とは対照的に、横を歩く琴子の足取りは重い。


「あたし達、色んな人、傷つけちゃったね」


今しがたの金之助を、そしておそらくは沙穂子さんに思いを馳せ、物憂げにつぶやく。


「そんなこといってたら、何もできないだろ」
「そりゃそうだけど……」


何でもないことのようにさらりと返す俺に、琴子はなおも歯切れが悪い。

琴子をこの手に入れるためなら、たとえどこの誰が何人傷つこうが構わないとすら思える俺とは違い、
自分以外の人間に対して慮ることのできる琴子。
琴子のそういうところは無論長所であることはわかっていても、
それでも、今この瞬間、やっとともに何ら障害なく歩んでいけるという時に、
俺と歩く未来ではなく、置き去りにした過去へと思いを馳せているのは、何となく面白くない。

そんな思いから、ついつい意地の悪い言葉が吐いて出る。


「おれ達だって、この先どーなるかわかんないんだから」


思惑に違わず、俺の口から発せられた言葉に琴子がぎょっとしたように目を見開く。


「ど、どーなるかわかんないって……そんな…だって……」


見る見るうちにその双眸に涙を溜める様を見やり、ささくれた心が凪いでいく。
今、この瞬間、こいつの中から金之助も、沙穂子さんも吹き飛んで、その胸を占めているのはただ俺のことだけ。

そう、それでいい。


「でも、でも……入江くんはどうかわかんないけど…あたしは絶対、ずっと入江くんが大好きだよ?」


涙目のまま、すがるように俺を見上げ、呟かれた言葉に思わず眉をひそめた。


(入江くんはどうかわかんない……って、なんだよそりゃ)


プロポーズしてまだものの3日だというのに、ずいぶん信用のないことだ。


――もちろん今しがたの俺の言葉と、ひとえにこれまでの俺の態度が原因ではあるのだが。


「…バーカ」
「バ、バカって…っっ!!!///」


ため息混じりに呟いたお決まりのセリフに馬鹿正直に反応してきたその刹那、
華奢な肩をグイと引き寄せて、その唇にかすめるようなKissを落とす。

唇を離すと、夕日よりも真っ赤な琴子の顔。
その表情に満足すると、肩を引き寄せていた己が手で傍らの手を取り歩き出す。


夕焼けに紅く染まった家並みを二人並んで歩く。
言葉少ななのは変わらないけれど、さっきまでの重苦しい空気はもうない。

からめた指先から伝わる互いの温もりだけがすべて。
それでいい。

過去ではなくて、これから二人で築く未来にだけ目を向けて。

二人で歩んでいく未来に、他の誰も何もいらないから。



一緒にいるこのひとときは、俺だけでその心を満たして。




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