「大石くん、お願いがあります」

同じクラスの隣の席の女の子が改まっていきなりこう言った。
頼みごと、とあっちゃ、邪険にするわけには行かなくて、「なんだい?」と尋ね返す。

「明日、絶対返すから」
「うん」
「100円、貸して下さい」
「…100円?」

僕が聞き返すと彼女は申し訳無さそうにされど力強く頷き、

「どーしても今、自販機のイチゴオレが飲みたいのです」

と言う。
100円ぐらいそんな、改まらなくともと思いながら、僕は自分の財布から100円玉を取り出して彼女の手の平に乗せた。

「はい、100円」
「恩にきります!」
「いや、いいよ、返すのは、何時でも」
「絶対、絶対返す!
全部一円玉で!」
「いらないから」

彼女は僕の言葉なんかまったく聞かず、踊るようにくるりと踵を返して、イチゴオレの待つ自販機へと駆けて行った。

僕はただ、それを見送る。

(…あー、緊張した…)

今の僕の気持ちなんて、イチゴオレに夢中な君はきっと気付かないんだろうな、そう思いながら。




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