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位置は対極、距離最大

仁王×柳生





練習後のコートで交わされるボールの応酬を眺めていた。
大抵のダブルスペアがコーチの策略で引き裂かれて以来、即興ダブルスで試合を行っていたが、全員が合流したということから久しぶりにダブルスをしたいと丸井と桑原に言われ、仁王と柳生もその場に残っていた。
他にもコートや、ベンチには丸井が声をかけたと見える何組かのダブルスペアがいた。
彼らが久しぶりに組むパートナーの力量を図るために軽くボールを打ち合ったり、真剣にミーティングをしているのを横目に柳生と仁王は作戦会議をするでも、ボールを打ち合うでもなく、ただその光景を眺めていた。

「それにしてもお前が、レーザーのフォームで曲がる球を打てるとは知らんかったぜよ」
「言ってませんでしたからね、全国では使う機会もなかったですし」
「声のトーンも分析済みとはのう」
「それ以前に、私の情に訴えることを保険として準備していた段階で、あなたは負けています」
「あれは失敗じゃ、負けても仕方なかったと今は思っとるよ」

仁王はそういうと、上に一つ伸びをした。
そのまま仁王は言葉を紡ぐのをやめ、退屈そうにコートへと視線を向けたまま動かない。
どうやら、本当に何も準備をしないつもりらしい。
柳生はそんな仁王に特に不満もなく、同じようにコートへと視線を戻した。

多分、一般的なダブルスペアとしては、異色なのだということを柳生は自覚していた。

幾度となく柳生は仁王とペアを組み、同じコートの中で闘ってはいたが、感覚としては共闘、という形に近かったのではないかと思う。
だからかはわからない、他のダブルペアが使う同調のように、柳生は仁王の思考を共有できるわけではなかったし、仁王も柳生の思考を理解はできないだろう。 ただ、行動や、思考をお互いに予測し、読みあうことで試合を進めていた。
作戦も何もない。コンビネーションの技を多く持っているわけではない。
敵の動きを読むだけではなく、仲間であるはずの仁王の思考を読み取る、予測する。
それがスリリングで、何よりも楽しいと感じていた。そう、不覚にも。

手のうちなど絶対明かさない。
全てはお互いを出し抜くための策略なのだから。
彼がどんな特訓をしたのかを聞くつもりもなかったし、何ができるようになったかも聞くつもりはない。
全ては、試合の中でみぬいて行けばいい。
それはひとえに、柳生にとって仁王という男が、一番の相棒である以前に、最大のライバルであるからだった。
それはまた逆もしかりで。

この先、自分たちがどれだけ長い期間ダブルスを組んだとしても同調みたいな技を使えるようになることはないだろう。
それでも、自分の実力を一番に引き出せる相手も間違いなく、仁王なのだ。

ある程度、準備が終わったのか、このまま続けていたらいつまでも試合に入れないと判断したのか、コートでの練習が終わり、コートの中に人が集まっていく。
それに合わせて、仁王は億劫そうに立ちあがった。
そして、柳生の方へと振り返り、口角を持ち上げる。

「特訓の成果、見せてもらおうかの」
「貴方こそ」
「いうのう、じゃあ」

いくぜよ。

多分この先も。
どこまでも行っても自分たちは。
ネットを挟んで立ち続ける、一番距離の遠いダブルスペアであり続ける。
そして。

「勝ちますよ、仁王くん」
「当たり前じゃ」

きっと、負けない。


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お題配布元→ligament






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