【ハジメマシテウィーク】
「切原」
一瞬、誰に呼ばれたのか解らなかった。
中々ある名前ではない。
自分が呼ばれているには違いない。
しかし到底そうだとは思えなかった。
「赤也」
下の名前を呼ばれる段になって、切原は弾かれたように振り返った。
「何でしょうか、真田先輩」
無言で、部費に関するプリントが差し出された。「あ、ども」と受け取りながら会釈すると、顔を上げた時には、真田の背中は廊下の角を曲がって見えなくなっていた。
急に、両足で自立しているのが億劫になった。
壁に凭れかかって、重力に任せて座りこむ。
物凄い勢いで何かがこみ上げる。
肺の底から全ての空気と共に吐き出す。
少しだけ冷静になった。
(吃驚した)
覚えず、口を覆う。
(認識されてるなんて思ってなかった)
まだまだ出会ってから一週間程の事。
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