僕は昔、旅をしていた。 最低限の荷物とギターだけを持って、世界を回っていたんだ。 理由はというと、至極簡単だったりする。 『世界を見てみたい』。 ……ね、簡単でしょ? そりゃね、旅を始めた時は僕もまだ若かったんだよ。 旅を続けていたら、そのうち世界を見尽くすことができるかもしれないなんて…思ってたんだからね。 馬鹿だよねぇ…そんなこと、できるはずもないのにさ。 僕が見たいと思っていたのは、『世界』。 …けれども、僕が実際に見ていたのは『僕の世界』だった。 好きなものだけを見て、嫌なものからは目を逸らす。 …意識していなくても、自然とそうなってしまっていたんだ。 僕は広い『世界』を旅しているつもりでいて、狭い『僕の世界』の中をうろうろと歩きまわっていただけだったんだ。 …でも、それに気がついた後も、僕は旅を続けていた。 ぐるぐるぐるぐる…同じ場所を、ずっとずっと。 なぜなら、長い間旅をしていた間に僕の居場所は無くなっていたから。 元居た場所もすっかり雰囲気が変わっていて、かつて僕が居た筈の場所はもう、影も形も無くなっていた。 ……僕の居場所は、僕が目を離している間に、僕が追いかけていた『世界』の中に埋没してしまっていたんだ。 …ところで、今は僕にも居場所がある。 でも僕は、時々だけど…まだ旅をしていたりする。 皆には『放浪癖がある』って言われてたりしてね。 夢を追い求めるような若さはもう失ってしまったけど、好奇心はまだ失くなってないみたい。 …まぁ熱中し過ぎて痛い目を見るのはもうゴメンだから、程々にはしておくけどね。 今僕は、未だに『僕の世界』を旅行中。 …そうは言っても、ただ旅しているだけじゃなくてね。あともう少しで何か進展がありそうなんだ。 ………え、『懲りてない』って…? そうなのかな。 …………でも、今僕が目指してるのは『世界』の探求なんかじゃないよ? 『僕の世界の広さ』の拡張。 僕の手が届く程度の広さでいいから。 ………『僕の近くにいてくれる人たちの世界』に、いつか届くといいなぁ…なんてね。 <了> 彼が初めに追いかけていた『世界』は、神の目線から見た『世界』が一番近いものではないかと。 ヒトは誰しも、自分の都合の良いようにしか世界を見ることはできないのではないかと思います。 たくさんの『~の世界』。 それらが集まって、一つの大きな『世界』が形成されているのでしょう。 ……なんて。 |
|