有利 「拍手ありがとうなっ!」



祈り (○マ)




 俺は多分、かなり臆病になっている。

 「ユーリぃ!早く早く!こっちにきてよー」
 久しぶりの晴天、俺はユーリとグレタに強請られて近くの泉へと馬を出した。
 水面に反射する陽光がきらきらと美しい。
 一足先に走り出したグレタが浅瀬にサンダルのまま入り込んで、無邪気にユーリに手を振った。
 「おー、今行くよ〜」
 それへと手を上げ応えて今にも走り出そうとするユーリの腕を、咄嗟に掴みとめる。
 「?どしたの?コンラッド」
 不思議そうに見上げてくる黒曜石の黒に突き刺された俺の眉間には、長兄よりも深い皺が刻まれていたに違いない。
 「…あぶないですから、やめたほうがいいですよ」
 俺の言葉に「は?」と目を見張ったあと、軽やかに彼は笑い飛ばした。
 「何言ってんだよ、いつも来てるとこじゃんか。危なくないのはあんたが一番よく知ってるだろう?」
 そう、ここに彼らを連れてきたのは俺だ。少しでも危険そうなところには決して連れて行かない。ましてやグレタも一緒なら尚更、普段から安全極まりないところを調べて、そこにしか行かないようにしている。
 だから危なくはない。
 そんなこと、俺が一番よく知っているのだ。
 「でも…今日は危ないかもしれませんよ」
 そんなこともあるわけない。
 多分、ユーリには訳が解からなかったのだろう。きょとんと小首を傾げて俺を見上げている。
 「…どしたのコンラッド?なんかあった?」
 ああ、この人は聡い人だから、俺の心の動揺など、いとも簡単に見透かしてしまう。
 遠くで幼子が、父と呼ぶ人と同じ目で不思議そうにこちらを伺っている。
 あなたに解るだろうか、この俺の飲み込まれそうな不安が。
 やっと手に入れた温もりを失うのではないかという焦燥が。
 「水辺は…いけません、ユーリ」
 水はあなたの源。
 そして俺からあなたを奪うもの。
 「いけません、ユーリ」
 全ての水という水からあなたを遠ざけたい。
 水溜りから、雨雫から、杯から、涙から。
 そんな馬鹿げた考えさえも、俺の脳裏には浮かぶのだ。

 痛いほどその手首を掴み、必死にかき口説く。
 ああ、どうか、俺からこの人を奪わないで。
 




時期設定は…平和になって、コンラッドが帰ってきて…という捏造設定。(爆)

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