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以下は御礼小説「異なる瞳」第一話です。
三国志大戦、雄飛孫策×赤壁周瑜、軍師SR司馬懿×R曹丕が前提です。
第十話まで用意してますが、未完結です。
宜しければご覧下さいませ。



異なる瞳



嫌な天気だった。
湿り気を孕んだ風が東西に吹きぬけ、必勝の火計も役に立たない。
しかし槍兵重視の選択で出陣した今回は、騎兵重視の敵方と五分の戦いをしている。
―――― あと少し。
周瑜は口の中だけで呟いた。
あと少し、戦線を上げて敵城に張り付けば、親友の計略で壁に大穴を開けてやれるはずだ。
こういう時、後方で気晴らし程度の弓を射ている自分の存在はどうしようもなく苛立たしい。
それが相応の敵を相手にしている時なら、尚更に。
敵は槍兵に突撃を食らわすほど馬鹿ではなかった。
直前で的確に足並みを止め、高武力でもって交戦してきている。
孫策の武力を上回りはしないものの、厄介には違いなかった。

と、その時、孫策の部隊に焦りが走った。
敵城から、苦手兵種である弓部隊が出てきたのだ。
次の瞬間、点灯していた計略の印が部隊を包む光に変わる。
計略『雄飛の時』を溜め始めた合図だ。
周瑜は軽く舌打ちをする一方で、悪くない、とも思った。
戦場を支配する時計は、もはや終了時刻間近であることを示している。
ならば、無理矢理にでも押し込んでしまった方が良いのだ。
今、幸いにして互いの城は無傷。
一度でも攻撃を入れたほうが勝利するはずだ。
「吹っ飛べやぁっ!」
その声を聞くと、周瑜は我知らず口角を吊り上げた。
鬼神もかくや、という程の覚醒を見せる親友は、幼い頃から今なお周瑜の心を捕らえて離さない。
敵城の隅から出てきた騎兵がようやくこちらへ向かってきたと同時、孫策に纏わりついていた敵将の断末魔が響いた。
――――― いける、か。
走射をきめつつ戦線を下げぬよう、周瑜は徐々に移動する。
孫策の前の敵がいなくなったとて、彼の兵力も半ばは削げ落ち、戦闘時間は更に少ない。
「…くっ!」
逃げ切れなかった突撃を受け、部隊には弱くない衝撃が奔った。
周瑜は咄嗟に計算し、あと二回が限度と判断する。
「…くそっ!耐えろ!」
敵の馬首が返されるのを見、怒りを隠さず檄を飛ばした。
再び、衝撃。
部隊の三割が飛んだ。
元々の被害もあり、残りは二割をきっている。
「…伯符!…早くしないか!」
周瑜が叫んだ時、一種場違いな程の喊声が戦場に起こった。

それは戦場の時さえ止める、程。

「ぶっ飛びそうだぜ!」
嬉々とした若き主君の声に、周瑜は目を見開いた。
刻限の迫った戦場で、あろうことか、孫策は一騎打ちに興じてしまったのだ。
「そ、そんな…、伯符…!」
お願いだから自分が吹っ飛ばないでくれよ、と周瑜は矢を番(つが)えることも忘れて真剣に祈る。
この時ばかりは、敵も口を開いたまま突っ込んでこようとはしなかった。
一合、二合、三合……。
現場から離れた場所では、どちらが優勢なのか判別がつかない。
ただ、濃青の外套の間にちらつく暗い色彩の外套から、相手が敵国の太子・曹丕であることが解った。
武力を考えれば、まず負けない。
――――― 下手を打たなければ……。
脳裡を掠める悪い予感に、周瑜は身震いする。
考えてはいけないと思うほど、何故かその予感は強くなっていく。

そして、五合目の刃が重なった時だった。

「なにっ!?」
「!?」

接触した刃に生じた微かな白光。
それが、瞬く間に辺りを覆い尽くした。




***





「……く、…何なのだ、一体…?」
光が収まると、周瑜は頭部を庇っていた両腕を下ろし、息をついた。
辺りを見回すと、自軍の兵も敵軍の兵も皆あっけに取られ、身動きできずにいる。
周瑜もまた例外ではなかったが、それも孫策を見るまでのことだった。
「伯符!!」
その姿を目にした途端、馬に鞭を入れるのももどかしく駆けつけた。
孫策は、落馬して倒れていた。
「…伯符!…あぁ伯符!!」
周瑜は馬から飛び降り、膝をついて孫策の頭を抱き寄せた。
震えそうになる手で呼吸を確かめ、脈動に触れて深い溜息をつく。
「良かった…」
孫策は、単に気を失っているだけのようだ。
間もなく相手の家臣もやって来、地に倒れた状態のまま手早く呼吸と心拍を確認すると、双剣を拾って鞘に戻し、それごと曹丕を抱え上げた。
「……お互い災難だったな」
そう、呟くように言い残して去っていくのは、確か『曹仁』という名の武将だったか。
ふと気付いて時計を見上げると、戦闘時刻は既に終わっていた。

周瑜は近付いてくる仲間の声を背に、孫策の体を抱き締めた。
――――― あの光は何だったのか。
一瞬にして戦場を支配し尽した白い閃光。
これでは戦闘自体が無効になるに違いない。
「『災難』…か。言い得て妙だ」
互いに残ったのは戦闘の傷と気を失った主君だ。
だと言うのに、勝利も敗北もしなかった。
当然だ。これは『戦』ではなくなるのだから。
それはつまり、嵐にあって被害を得たようなものだろう。
しかしあの白光は、周瑜には嵐よりずっと危険なものに思えた。



その予感を裏付けるものなのだろうか。
本営に運び込まれた孫策は、宵闇が訪れて尚、目を覚ます気配がなかった。



― 続く ―




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