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vol.22
TOA
彼と彼女と譜業



「ああ、幸せだなぁ」
「はぅあ、ドン引きぃ……」
「ほっとこうぜ。そのうち正気に戻んだろ」

 宝の山。
 夢の街。
 理想郷。

 ガイ・セシルから見たシェリダンという街は、言うなれば浪漫の塊。
 いつもの如く街に入ってすぐに放置されたガイがあちこちを探検しては目を輝かせ、通りがかりの技師を質問攻めにしまくっている。
 そんな、ありふれた昼下がり……。










「ガイ、ガイ。居ませんの?」
 シェリダンの集会所に気品溢れる声が響く。
 人を呼びつける事に慣れた声に、呼びつけられ慣れた使用人は上の階の一室からひょっこり顔を覗かせた。

「ナタリアじゃないか。君も音機関の素晴らしさに目覚め――」
「てはおりませんわ。貴方の所在、街角で訪ねたらすぐに教えてもらえました。随分と有名ですのね、ガイ」
「ん? さあ、どうしてだろうなぁ」
 集会所の入り口に立つ姫君の元へ向かいながら、はて何故だろうかと首をさする。
 彼は足取り軽く階段を降りると、小脇に抱えていた小柄な機械をそれは嬉しそうに掲げてみせた。

「それより、この音機関なんかどうだい? なかなか洒落たフォルム――」
「結構ですわ」
「はは、相変わらず容赦ないね」
 歯牙にも掛けない姫の様子に苦笑を返す。
 既にお互い、慣れっこになっているらしい。

「それより、私困っておりますの。ガイ、手を貸して下さいません?」
 頬に手を添え憂い顔を見せる女性を前にして、このフェミニストが黙っているはずもなく。
「麗しき姫君の願いならば、喜んで」
 ガイは、魅力的な笑みと共に優雅な動作で一礼してみせた。










「今日は私がお料理当番ですの。ですが、こちらのキッチンの勝手がよく分からなくて……」
「おおっ! 最新式の音素式加熱調理譜業器じゃないか!!」
 ナタリアに連れられてやって来たキッチンで、早速箱形の調理譜業に駆け寄るガイ。
(まあ、あれも調理用具でしたのね。収納箱かと思いましたわ)
 コンロの使い方を聞くつもりだった姫は、ダイヤルやレバーを触っては歓声を上げる様に少しばかり興味を示した。
 シェリダン製の調理器具なら、料理が少々不得手でも補えるような秘策があるのではないかと考えたのだ。
 ちなみに、“少々不得手”というのは彼女個人の見解である。

「ガイ、簡単に使い方を説明して下さらない? 仕組み云々は知らなくても構いませんから、とにかく簡単に。宜しくて?」
「これもなかなか面白いんだが……まあいいか」
 ガイは調理器を優しく撫でると、前面の扉を開いてみせた。
「名前の通り加熱器なんだ。この中に食材を入れて、こことこっちのダイヤルで温度と時間の設定をして、後はスイッチを入れるだけ。な? 便利だろ」
「まあ、素晴らしいですわ!」
「で、肝心の設定は……」
「ガ〜イ〜っ! 何処だ〜?」
 どうやら外から聞こえてくるらしい呼び声に、二人は顔を見合わせた。

「ルークですわね。どうしたのでしょう?」
「ルークのヤツ、何かやらかしたのか? すまない、ナタリア。すぐ戻ってくるから」
「ええ、構いませんわ。行ってさしあげて」
 謝罪の言葉を重ねて駆けていく背中を見送り、彼女は机に置いていた食材へと振り返った。
「何だか簡単そうでしたし、私でもどうにかなりそうですわ。さて、今日は何に致しましょう」
 彼女は鼻歌交じりに食材を物色すると、花のように微笑んだ。



 そして。
 ガイがキッチンへ戻ってきた時、そこには言葉を無くすような光景が広がっていたのである。










「大変ですわ、ガイ! 材料の中に爆弾が仕込まれておりましたの!!」
 ガイは、開いた扉から黒いナニカを覗かせている加熱器の前で、真っ白になっていた。
「おかげで、料理が出来るどころか機械が煙を噴いてしまいました!」
「……………………なあ、ナタリア」
「これもヴァンの……はい? なんでしょう?」

 加熱器の前で力説していたナタリアは、魂出掛かった呼び掛けに小首を傾げた。
 彼はちらりと机を見やり、のろのろとナタリアへ首を廻らせた。
「卵……入れたかい?」
「ええ、入れましたわ。小麦粉と牛乳も入れました。後はお砂糖にダイコ……」
「それ、混ぜて?」
「いいえ? 混ぜなくてはいけませんでしたの?」

 最後の不可思議な食材名にツッコミ入れる余裕すら、ガイには残っていなかった。
 彼はふらりと首を振ると、重い溜息を吐いた。
「細かく分析すると他の要因もありそうなんだが……。まず、卵はそのまま入れちゃいけなかったんだ」
「まあ、そうでしたの」
「それから、粉末もマズかったと思う」
「ということは、生地は作らなくてはいけませんでしたのね。私、てっきり全てやって下さるものと思いました」

 次からは気を付けましょう、と呟く彼女にそうだね、とだけ返す。
 言うべき事はまだあるはずだが、それ以上は追求しない。
 それは彼の優しさなのか、甘さなのか。


「うん、まあ……一緒に謝りに行こうな、ナタリア」
「……コッソリ直せませんこと?」
「流石に無理かなぁ。設計図見せて貰えば、修理の手伝いくらいは出来ると思うが」
 今までの流れから、ヴァンの陰謀ではなく自分に非があった事に気付いたナタリアは、意を決して顔を上げた。
「分かりました。私、一人で謝罪に行きますわ。……その、修理を手伝うように言われた時には、手を貸して下さいませね?」
「ああ、勿論」
「感謝します。それでは、行って参りますわ」

 善は急げと、キッチンを出て行くナタリアの背中を見送りながら。
「粉塵爆発の原理って、どうだったっけ……」
 ガイは、思考停止した頭で惨状の原因を考えていた。





 最後に。
 今夜の夕食は大層ナタリアらしかった、とだけ追記しておく。






ついでに声掛けてやって下さいませw 匿名おっけー。

あと1000文字。