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以下、リハビリ小ネタ連作です。(全10話予定)
会話ばっかりの小ネタ集。順次更新予定です。

お礼の連載小ネタは、こちらでまとめて見ることができます。
ある悪魔の所業
お手数ですが、このアドレスをメモしていただけると、次回から簡単に続きを見ることができます。





 港町にある唯一の酒場は、たくさんの冒険者でにぎわっていた。
 
 笑い、歌い、酒を飲み交わす人々は、皆同じ目的を持つ仲間であり、また明日からは敵となる者たちだった。
 
 広間を埋める冒険者たちは皆、明日朝一の船に乗って、この港から北の大陸へと旅立つ。
 
 普段あまり使われることの無い、三日に一度の連絡船も、明日は乗り切れぬ程の客を北の地へと運ぶだろう。
 
 
 我らの旅路に幸あれ!
 
 
 旅人のひとりがジョッキを掲げ、おおきく吼えた。
 
 
 
 
 
 海を渡った北の地に、それは恐ろしい魔物が出たという。
 
 その魔物の討伐に、多額の賞金をかけられたという。
 
 そんな噂を聞きつけた一部の冒険者たちは、北の地へ渡る唯一の道である、この港へと集った。
 
 そして、冒険者たちは皆、一攫千金を夢見ながら、前祝だと酒をあおった。
 
 港にひとつしかない酒場で、すべての冒険者が杯を交わし、ときに喧嘩し、笑いあった。
 
 
 
 
 
 翌朝、北の大陸へと渡る連絡船が、港を発った。
 
 いつもは利用者のいない寂しい船上には、いつもと変わらず、たったひとりの乗客の姿だけがあった。
 
 
 
 たくさんの冒険者たちが、睡眠薬による深い眠りから目覚め、怒り狂いながら港に押しかけるのは、日も昇りきった昼になってのことだった。
 
 
 
 
 
1.北の地の異変
 
 
 
 
 
「おや、これは術師殿」
 
 俺は、今日の自分の運勢の吉凶を一瞬で悟った。
 
「このような辺境でお会いできるなんて、ものすごい偶然ですねえ」
 
 術や占などではない。長年の経験、というヤツだ。
 
「しかし、今日は妙にご機嫌麗しいですね。
 まるで、酒場で他の冒険者すべてに睡眠薬を盛って、港に置き去りにした挙句、手柄を独り占めする計画を成功させたような雰囲気で…」
 
「アンタいつから俺をつけてたああああ!!?」
 
 占うまでもない。大凶だ。
 
 
 
 
 
「待て、なんでアンタが、当然のように船から出て来るんだ。
 あの船には間違いなく、俺以外には乗り込まなかったはずだ」
 
 俺は、何故か当然のように後をついてきた見飽きた僧侶を、うんざりしながら振り返った。
 何をおっしゃいますか。そう、ヤツは笑って言った。
 
「あの船、誰が舵をとっていたとお思いで?」
 
「船舶免許まで持っていやがったか…っ」
 
 次があったら、船員も置いてこよう。俺は固く心に誓った。
 
 
 
 
 結局、強制的に同行してきた僧侶と、四方山話という名の言葉のドッジボールを交わしつつ、船着場から歩くことしばし。
 
 年季の入った古木の門をぬけて、俺たちは小さな村にたどり着いた。
 
 
 
 
 
 民家と畑がひかえめに並ぶちいさな村だった。
 
 いくらか歩くと、表で野良仕事をしていた村人と目が合った。「人だ!」村人は声を上げた。
 
 …どうやら、人の出入りの少ない土地らしく、余所者に敏感らしい。
 
 その声につられ、表にいた他の村人たちも「人だ人だ」と物珍し気に寄ってきた。
 中には、わざわざ屋内から出てくる姿もある。
 
 
 気がつけば、俺達は10人程の村人に囲まれていた。
 
 
 余所者は出て行けと叩き出されるのか、そう警戒したが、村人たちは皆、好奇心全開の笑みでやけに人懐こく寄ってきた。
 
 …愛想は良くとも、こうも大勢と詰め寄られると、やはりちょっと怖い。
 
 足元の子供などは、俺の体をぺたぺたと触りながら「人だ人だ」と大はしゃぎだ。
 
 おいこら見世物じゃねえぞ。
 
 
 村人のひとりが、なあなあと俺の手を掴んで話しかけてきた。「旅の人かい?」。ああ。と適当に相槌をうつ。
 
 それからはもう、質問攻めだった。
 
「ふたりだけなのかい?」問う村人に、そうだと答える。村人たちはあからさまにがっかり、という顔をした。
 
「他に人は来んのかい?」村人は重ねてきいた。あと3日もすりゃあ、村から溢れ出る程に押し寄せるだろうよ。そう俺が答えると、そうかそうか! と村人たちの歓声が沸いた。
 ちなみに、3日後とは、次の定期船がこの村に着く日のことだ。散々待ちぼうけをくった冒険者たちが、津波のごとく押し寄せる様が目に浮かぶ。…まあ、津波に飲まれる前に、俺は逃げおおせる予定だが。溺死させられかねない。
 
「旅の宿が必要だろう、さあさあ我が家で休んでくれよ」「いいや旅人さん、うちがいいよ」「いや、うちだ」
 
 数日ぶりの獲物を取り合う肉食獣さながらの勢いで、村人は寄ってたかって俺の服を引いた。
 
 綱引きの綱のごとく引かれながら、俺は当初の目的を振り返る。
 
 アンタら、魔物討伐の依頼はどうなったよ?
 
 俺としては、真っ先に依頼の詳細を問いただしたかったのだが。
 
 …これ、話を聞けるような状況じゃあねえよなあ。
 
 諦めの溜息をつく俺を、急に何者かがぐいと引っ張った。
 村人の包囲網から救ってくれたのは、意外にも僧侶だった。
 
 今だこいこいと手を伸ばす村人たちに、僧侶は「残念ですが、急ぎの用事がありますので」と笑顔でけん制して、すたすたと村を出て行った。俺を引きずりながら。
 
 
 
 
 
「では、残念ですが、私は他に目的がありますので。
 貴方はひとりで魔物退治、がんばってくださいね」
 
 村から少し離れた道端で、急に僧侶はそう言った。
 
「目的だと? アンタは、魔物退治の賞金目当てじゃあねえのかよ」
 
 ええ。と僧侶は神妙に頷いた。
 
 
「倒さなければならない敵が、いるんです」
 
 
 いつになくまじめに、ヤツは言った。
 
「…弱者を狙うのは、流石にどうかと思うんだが」
 
「当然のように村人襲う前提で受け取らないでいただけますか?
 そんな見返…意味の無い事はしませんよ」
 
 案の定、利益目的のようだ。
 いや別に、コイツにまともな行動など、元より期待してはいなかったが…
 
「とにかく、貴方は今すぐ魔物退治に旅立ってください。仕事の邪魔ですから」
 
 
 そう、強制的に村を追い出され、探索の準備も出来ぬまま、俺は辺境の地へとひとり放り出された。
 
 
 俺は、一度だけ村を振り返り、大きくため息を吐いて、向き直った。
 
 
 今日の貴方の吉方は南です。と以前言われたことを、ふと思い出した。何年か前の話だが。
 
 
 とりあえずの行き先は、南だ。




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