極彩30













「よし次!!」

剣道部の練習は実践へと続いていた。斑目が一人一人の相手をしている。

既に部員の殆どがそれを終えているが、斑目は汗一つかいていない。

「化け物かアイツは。」

「凄ぇな一角さん。」

檜佐木は斑目の底抜けの体力に舌を巻き、一方で、阿散井は斑目の動きに目を奪われていた。

無駄が無く、全ての動きが美しい。

自分と同じか上の力を持つであろう斑目の稽古が楽しみで仕方無い…体が疼いた。



「よし、修兵次はお前だ!!」

「おう、お手柔らかにな。」

「だから手加減しねぇって。…本気で来い。」

「分かった。」



(おっ…何だかんだ言いながら楽しんでんな。)

檜佐木の表情が変わる。阿散井も斑目も、そして朽木もそれを見逃さなかった。



「はっ!!」

仕掛けたのは檜佐木だ。俊敏な動きで斑目を捉える。

しかし斑目も負けてない、直ぐに反撃に転じた。

「オラァ!!」

「くっ…!」

斑目の一撃は重く檜佐木の腕を痺れさせる。

「このっ!!」

「おわっ!!」



(おーっ修兵やんなぁ!)



最早高校生のレベルではなかった。

余りのハイレベルな戦いに部員達は息を呑み、彼らの動きを見逃さない様にと真剣に見つめている。



彼らの打ち合いは勝負がつかず、このまま永遠に続いてしまうような錯覚さえ抱かせた。



「そこまで。」



それを止めたのは朽木だ。



「このままでは収拾がつかん。続きは日を改めろ。」

「修兵、やるじゃねぇか。」

「お前こそ。恋次、お前の番だぞ。」

「おお!」

(お、マジだなこりゃ。)



斑目や部員達に闘争心を煽られた阿散井は真剣そのもの、いつもなら内に秘めるだろうそれを隠そうともせず、表に出している。



「どうだ恋次、試合にすっか?」

「勿論。」

「よし。弓親、お前審判やれ。」

「了解。」



審判に指名されたのは剣道部の副主将、綾瀬川弓親その人であった。



「あれっ何で綾瀬川先輩が…」

「檜佐木君気付くの遅いよ。僕ココの副主将。」

「マジ!?」

「マジ。女子と男子分かれてないんだよウチ。まぁ僕の相手は男じゃないと無理だしね。」

「成程…男女関係なく実力No.2は綾瀬川先輩つーことか。」

「そういう事。さぁ二人とも準備は良い?」

「「いつでも!」」



真剣な二人に綾瀬川は口元で笑った。

生き生きとした恋人を見るのは久しぶりだ。

(良かったね、一角。)



今の部員の中には斑目と同等の力を持つ物はいない。それ故に本気を出せない彼はどこか鬱々としていた。



檜佐木や阿散井のおかげで、今日の斑目は水を得た魚の様だった。



「では…始めっ!!」



同時に竹刀の乾いた音が響いた。

阿散井が胴、斑目が面を、同時に衝いた。それが分かったのは二人と綾瀬川、檜佐木、朽木のみ。

部員達は瞬間の出来事に終わった事すら理解出来ずにいた。



「二人とも同時だよ、引き分け。」

「ぐあ~っ気持ち悪ぃっ!!」

「確かに…」

「仕方無いじゃない、引き分けなのは引き分けなんだから。」



性格上白黒はっきりしたい二人はその場にしゃがみ込んだ。



「くそっ…恋次テメェ今すぐ入れ、そんで毎日俺と勝負だ!!」

「望むところだ。」

「…やっちまった…」

檜佐木は頭を抱えた。阿散井が言ってしまった台詞の重大さに気付いていない。

「何がだよ修兵。」

「バカかテメェは!!自分で剣道部入るっつったろうが!!」

「あ…」

「決まりだな。良かったな斑目。」

「その台詞、そのまま返すぜ先生。」

「何の事やら。お前の相手を探し出してやっただけではないか。」

「うわっ汚ねぇっ!!」

(…やっぱりそういう事かよ。)

「檜佐木、お前はどうする?」

「引っかかってやるよ先生。」

「…やはり似てきたな。」



こうして二人の剣道部入部が決定した。

全てが朽木の策略である事を阿散井だけが知らずにー…。



















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