【戦禍/282】





人を喰ってまでは生きとうない。人を喰うって俺、隣の奴喰うんかい?
隣を見たら同じ顔をした奴。いいや、正確には俺がコイツそっくりに変装しちょる。

「んー、じゃあ気いつけんしゃいよ」
「私はやはり気乗りしないのですが…」
「今回も大丈夫ナリよ」

変装をする度に毎回同じ会話を繰り返す。
俺がこの軍でいる価値といえば柳生そっくりに化けれることじゃ。
それを認められ軍上層部の仲間入り。まぁ、この事は一部の奴等しかしらんけど。

綺麗に癖つけが出来んと崩れてくる前髪を部屋に備えつけられた鏡を見ながら直す。
映る姿に髪型と眼鏡だけでよう此処まで似ちょるのうと自分で自画自賛じゃ。

柳生は人当たりの良さから外交関係を任されることが多い。只、それには危険が付き物で友好関係を築く同盟を、会合をと、持ちかけてきた相手が本当に友好的とは限らん。怪しいと踏んだ時に柳生に扮して外交を担当するんが俺の仕事じゃ。
俺が柳生になりすまし柳生が俺に扮して一緒に会合に赴いて相手の出方をみるときもある。
戦いの鉄則は戦場でも会合でも上を潰すのが基本じゃけんのう。

「どうじゃ、これでええじゃろ」

髪の分け目を整えて眼鏡をかければ完璧な柳生。柳生を鏡に映るように引っ張り出し、肩に腕を回し一緒に映れば瓜二つの人間。

「そっくりじゃなぁ、俺に化けちょる時もよー、似ちょるけど」

俺達が入れ代われるのを知っとる奴でもなかなか見分けん。

「化けちょる時に喰ったら、自分喰っちょるみたいになるんかのう」
「喰っう…?」
「戦場で食料がのうなった時に一人生き残る為に先に死んだ奴喰って生き残るんじゃと」
「誰がそのようなことを…?」
「誰じゃったかのう。生きる為に人間の尊厳を試されよるのう」

そげなもん喰う気も起らん思うても極限状態になったら分らん。同じ人を殺すことが出来る人間に同じ人間を喰わないとは言い切れん。

「人が同じ人である人間を食べるなんて事は有り得ません」
「同じ人を殺せるのに?」

生真面目な柳生は柳生らしい道徳的な事を言うが意地悪く質問を返してみる。

「…っ、それは」
「戦争じゃけん仕方なかとね」

きっと柳生は答えに詰まるきに先に言葉を被せて柳生の顔して柳生の困ったような少し悲しげな笑顔を真似して笑う。

「………」
「…人は喰いとうないけど、相手が生き延びて欲しい奴じゃったら喰って欲しいのう」

どうでもええ奴に喰われるんは勘弁やけど、好いとる奴を生かす為じゃったら喰われてもえぇ。

「柳生やったら喰われてもえぇよ」
「喰べません、一緒に生き残ります」
「……うん、そうじゃね。俺等負けんし」

肩に回しとった腕を引き寄せて柳生を抱き締めた。

戦場で隣の奴は喰わんし、俺も喰われる事はなか。






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