ありがとうございました!









[Give a shower of kisses]

Why don’t you try this question?/この問題に挑戦してごらん (エルンスト×レイチェル)
Give a shower of kisses/キスの雨を降らせる (ルヴァ×補佐官ロザリア)
Always poker-faced under any circumstance./いつだって自分だけ (チャーリー×女王リモージュ)
They've got me up against a wall./もう逃げられない。
You're no different./あなただって同罪
His promises are empty./約束は口先だけ。 
(オスカー×コレット)
The king and his train/王様とその随行者
It's so boring./退屈すぎる
Fate just doesn't seem to be on our side./運命は私たちの味方ではないらしい (オリヴィエ×補佐官ロザリア)
It's the stuff they don't teach you in school./学校では教わらなかったこと


お題配布元:模倣坂心中







オリヴィエ×補佐官ロザリア

Fate just doesn't seem to be on our side.  運命は私達の味方ではないらしい



 彼女は今日はとてもよく笑う。
 何でもない、些細なことで。
 普段は無愛想でないけれど無用な愛想を振りまくこともないという感じで、どちらかというと神経質に眉間に皺を寄せている。
 よく笑っているからといって、怪訝に思ったりはしなかった。
「まさかあなたと会うとは思ってもいなかったわ。予想もしていない出来事も、時には楽しいものね」
 忙しい補佐官のロザリアはそう言って笑う。本当に楽しげに。
「休日まで見知った顔と出会って、本当はがっかりしてない?」
 悪戯めいて訊いてみると、彼女は「どうかしら」とやはり微笑みながら返してきた。
 別に嘆いたりしない。どころか、そんな彼女は特別なのだと思った。
 それなりに気を許していて、リラックスしている。
 もしも――
 ふとオリヴィエは考えた。
 もしも、自分と会う前からロザリアは笑っていて、ただ上機嫌なだけだったら?
 彼女が上機嫌なのは嬉しいが、ちょっとだけ受け入れたくない部分もある。子供じみた衝動だけど、自分に嘘はつかない。
 向かい合うロザリアの表情を見ても、確かなことは何もない。
 まあ、いいや。
 結局はそう思うのだ。習い性になっている疑いの虫も観察力も、ロザリアを前にするとお手上げだった。こういう敗北感はそう悪くない。
 だけど、プラス思考の自分が考えてる。
 彼女もほんの少しは同じように思ってるはずだって。
「ねえ、何かいいことでもあった?」
 明るいけれどそれほど騒がしくない店内を見渡し、ロザリアは薄赤いジュースのストローに口をつけた。紅茶じゃないなんて、それもまた珍しい。
「あったわ」
「どんなこと?」
「どんなというほどもないけれど・・・起きた時から気分が良かったの」
「え、そんだけ?」
「いけないかしら?」
 いけなくはないよ。私だってそういう日はあるしね。でも・・・・・・まあいいや。
「私も今日はいいことあったんだ」
「まあ、何がありましたの?」
「教えない」ニッとした。
 ロザリアは不満げだが、オリヴィエは笑って誤魔化した。言ったら、もうこうしてられなくなるかもしんないでしょ? あんたと会えただけですごく嬉しいんだって。
「私、少し食べ過ぎてしまったみたいだわ」
「そう? だったら、ここ出てちょっと散歩でもする? なんか天気悪くなってるみたいだけど、雨は降らないでしょ」
 ロザリアが驚いたみたいにして見つめてきたから、こっちまで驚いた。
「いいわね!」すぐにそう言って、笑顔になった。
 誘いに乗ってきてくれたのは嬉しいんだけどさ・・・さっきのは何? なんで驚いたの? 下心でも透けて見えた?
 ははは・・・困ったなぁ。でもまだ笑顔でいるってことは、少しくらい期待してもいいんだよね?
 うん、たぶん大丈夫。
 勝手に自分を納得させて外に出た途端、雨が降り出した。しかも雷まで鳴ってる。
 数歩歩き出していた2人は、慌てて店先に戻った。顔を見合わせて苦笑し、オリヴィエが店内を指す。
「どうする、戻る?」
「いいえ。・・・だって、少し――」
「間抜けだもんね」
「ええ」
 ロザリアのクスッと笑った顔はまだ機嫌を損ねていない。
「どれくらいで止むかしら?」
「すぐでしょ」
 雨の音が大きくなったせいで、ロザリアには聴こえなかったようだ。オリヴィエは身を寄せ、彼女の耳に直接言う。
「どうせ通り雨だよ」
「そうね」ロザリアは慌てたように言い、すぐに視線を逸らした。
 ロザリアは雨に気を取られているようで、かすむ景色を熱心に眺めている。
 とても近い距離。ロザリアの肩は腕に触れ、指を少し動かせば手を繋ぐことだってできる。それはすごく簡単なんだろう。それも、私がそうしたところで軽いスキンシップみたいなもんで済まされるかもしれない。・・・だからしない。
 それにしても・・・ツイてるんだかツイてないんだか・・・。この雨がなければ、もっとロザリアの笑顔が見れたかもしれないし、いろんな話も聞けたかもしれないのに。
 けど、こうしてるのも悪くない。2人で雨宿りなんて、結構ロマンチックじゃない?
 ふとロザリアがあまりに静かなことに気づいて、彼女に視線を落とした。相変わらず景色に見入っているが、その横顔はこわばっている気がした。しかも、「そうね」を最後に口を開こうとしない。
 ・・・あらら、さすがにご機嫌ナナメ? それとも何か考え事でもしてる? 雨が嫌いとか?
 ――いや、雨が嫌いはないかな。だって以前、雨の音が好きだって言ってたことがあったから。
 ねえ、私はどんな話をすればいい? どうすればこっちを見てくれる? 普段は考えもしなことを必死に考えてる自分がちょっと可笑しくなった。
 ロザリアを見つめていて、何かが違うような気がした。不機嫌というより・・・困ってる?
 心なしか赤くなっていく頬に意識を奪われ、気楽な言葉をかけることすら忘れた。腕に触れているロザリアの肩が小刻みに上下している。
 と、ロザリアの指先が微かにこちらの手に触れた。掠めただけだと言ってもいいくらいの小さな感触。ほんの偶然だという感じで。実際にそうだったんだろう。
 ロザリアは眼を見開いてオリヴィエを束の間振り仰いだ。そのせいで彼女の表情をちゃんと見ることができた。
 顔が赤い。瞳はうろたえていて、激しく揺らいでいた。
 オリヴィエは思わず彼女の手をつかもうと手を上げたが、ロザリアは雨の中に躍り出ていた。
「ごめんなさい、大事な用を思い出してしまって! 行かなくちゃ」
「え、なに、ちょっと・・・行くって――」この雨の中を? 傘もなしで?
 だがロザリアは走り出していて、オリヴィエの言葉を振り払う勢いで遠ざかっていく。
 ああ、もう・・・やめてくんないかな。こんなのってない。
 オリヴィエは瞬間だけ躊躇ったものの、すぐにロザリアを追い始めた。
 いつもこうなる。少し近づけるかと思うと、何かが邪魔するんだ。ロザリアは雨が好きでも、私は好きになれない。たった今嫌いになった。雨だけじゃない、嫌いになったものならたくさんある。電話、スプーン、万年筆、イヤリング、アンジェリーク。・・・アンジェリークはまあ、冗談だけど。
 ロザリアの姿は捉えているのに、それほど近づけていない気がする。これまでと同じ。
 彼女はせっかちで白と黒をはっきりさせたがる性格だけど、ある部分だけはマイペースだ。ゆっくり、ゆっくり。焦らせると欲しいものは消えうせる。
 途中、雑貨屋の前を通り過ぎようとしてオリヴィエは引き返した。抜け目ない店主が店先に飾っているオレンジの傘をつかみ、店内に入って適当なお金をレジに置いた。
「その傘はこんなに高価じゃないですよ」
「じゃあ、足りてるんだよね」言って、すぐに店を出た。
 今度は、ロザリアに追いつくのは簡単だった。ロザリアは疲れていて、オリヴィエはちゃんとした理由を見つけたから。
「はい」
 立ち止まって息をつくロザリアの背後から傘を差し出すと、彼女は驚いて振り返った。
 オリヴィエは相手の手を取ると、ほとんど無理やり傘を握らせる。
「・・・・・・・」
「貸してあげる。次会った時に返してよ。結構高かったんだ」
 面食らって言葉もないようだったが、やがてロザリアは小さな笑みを見せた。
「・・・ありがとう。でも――あなたは必要ないの?」
 忘れてた。「私はそこらの店で見繕うから」
「気を遣ってくださるのは嬉しいけれど、もう手遅れだと思うの。だから、わざわざ来てくださることなんてなかったのよ」
 これも正論。どちらもずぶ濡れで、傘の必要性を失っている。
 オリヴィエは眉を上げた。
「ずっと雨に濡れて風邪をひくよりかは、その確率をちょっとでも減らした方がいいに決まってる。親切心にケチつける気?」ただの親切心じゃないけどね。
 ロザリアは今日出会った時と変わらぬ笑顔になった。
「あなたの親切を断れる人なんているわけがないわ。本当にありがとう」
 ・・・あんたさ、もしかして本当にただ単に機嫌が良いだけ? なんかさ・・・ここにいるのは私じゃなくてもいい感じがしてきた。
 おっと、落ち込むのは後にしないと。自棄になってロザリアによけいなことまで言いかねない。ただでさえ運命はこっちの味方になってくれないってのに。
 ぷ、運命だって。なにそれ。運が良いか悪いか、ただそれだけの話じゃない? 運命なんて大げさすぎる。これ以上ややこしくしたくない。私の許容範囲は、意外に狭いんだ。
「じゃあ、またね」
 軽く手を振ったオリヴィエは、来た道をゆっくりと戻り始めた。




 オレンジの傘は私に似合わない。でも、とても素敵。
 ロザリアは歩みを止め、そっと背後を振り向いた。小さくなっていくオリヴィエの姿に、笑みが漏れる。
 オリヴィエが風邪をひいてしまえばいいのに。そうしたら、私はあなたの世話を焼くわ。それが当然だという顔をして。あなたがぶつくさ文句を言っても、私はあなたの近くにいる理由ができるもの。
 けれど、きっと彼は風邪をひいたりしないし、私が妄想するようなことはなにひとつ起きない。
 不思議でもなんでもない。運命なんてこんなもの。
 いいえ、今日は良いことがたくさんあった。彼に会えた。そして、雨宿り。手が触れた。
 電話、スプーン、万年筆、イヤリング、それから・・・雨。私が好きになったもの。オレンジの傘も付け足さなくては。
 運命は誰の味方でもない。
 始めから。


















ついでに一言あればどうぞ(拍手だけでも送れます)
お名前
メッセージ
あと1000文字。お名前は未記入可。