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 昨晩から降り続けていた雪は街を白一色に変え中央では珍しく20センチの積雪となった。昼間は慣れない雪のせいで事故やらが相次ぎ、軍からも応援部隊が出動する騒ぎとなっていた。

「これだけ降るのだから帰って来られないだろうな。」

 脳裏に浮かぶのは今朝かけてきた電話の主。

『夕方着く予定。』

 いつも通りの短い言葉でも、彼が今回も無事に戻ってくるという安堵感で自然と笑みがこぼれた。残念なことに気まぐれな天候のせいで今日会うことは難しそうだが。
 
 普段なら、この時間はまだ賑やかしい部下がいるはずの室内も今日は私一人だ。とても静かで、仕事もはかどるかと思えば、気がつけばペン先が乾いてしまうほど手が止まっていた。

「いかんな。今のうちに終わらせなければ。……?」

 物音がドアの外から聞こえた気がした。万が一に備えて発火布を手にしてドアに寄る。一気に押し開いた。

「わっ! いってぇ!」
「は…鋼の!?」

 目の前にいたのは金色の頭。エドワード・エルリックは額を抑えてうずくまった。

「何、してるんだ?」
「あんたがいきなり開けるから! 頭ぶつけたんだよ。」
「それは悪かった。物音がしたから…君がそんなところにいるとは思わないだろう。いつもならノックもせず開けて、」
「い、いや…そうなんだけど…。」
「雪が積ってるぞ。とにかく中へ。」

 頭や肩に乗ったままの雪を払ってやると、うん、と小さい声が聞こえた。



「これ、報告書。」

 鋼のはタオルでわしわし髪を拭きながら、ぶっきらぼうに紙の束を突き出した。


「預かろう。それにしても、良く戻ってこれたな。これだけの雪では列車も動かないと思っていたが。」
「昼までは動いてたから飛び乗ったんだ。つうか、こっちがこんなに降ってると思わなかった。」
「そんなに急がなくても…ああ、早く私に会いたかった?」
「ばっ…かじゃねえの?」

 机を挟んだ会話はもどかしい。立ちあがって小さな頭をタオルごと腕の中に入れる。

「ちょッ!」
「まだ冷たいな。」

 頬に手をやると少し身を縮こませる。唇を合わせるとぎゅっと目を瞑った。

「ゥ、ん。」
「…唇が氷みたいだ。」
「も、もう離せって。」
「温まるまで離さない。」
「なら、熱いコーヒーでも入れろってー、のっ。」

 ごついブーツが脛に入る。

「痛ッ。げ、元気でなによりだ。」
「あんたもな。年中色ぼけ大佐。」
「ひどいな。」

 何気ない会話、触れて感じる確かな体温と匂い。
 
 鋼のが帰ってきた。

 肩にかかる解けた三つ編みの合間から赤い耳が覗く。ぱくりと齧ると肩が大げさに揺れて耳より赤くなった顔が振り返った。

「何、やって、ッんだよ!」
「だいぶ温まったかな?」
「言ってろッ。」
「…鋼の。」
「んだよ?」
「おかえり。」
「……おう。」

 冷え込む外気と裏腹に私の心だけは暖かい。例年にない大雪に少しだけ感謝しつつ、頭の中はこの後の予定を大急ぎで組み立ていた。
 

  

 




久々の原作設定でした。
兄さんもだけど、大佐は嬉しくてしょうがない様子(笑)
 




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