◇今なら言える◇





「久我山さん」
「何? 佐田くん?」
 ああ、麗しの久我山さんと一緒なんて嬉しいなあ。今日も貴女は綺麗です。
 僕は桜庭を待ってそわそわとしている彼女に笑いかける。そしておもむろに口を開いた。
「久我山さん、好きです」
 にっこり笑って告白すると、彼女はびっくりしたのか目を真ん丸に見開いた。
「……ええ!」
「好きです。いや、好きでした」
 だけど僕は気にせず続ける。
「貴女の凛とした姿、上品な微笑み、とてもとても大好きでした」
 僕はもう振られている。というか告白する前に負けが決まっていた。だから今、こんな告白をしても意味はないのだ。
「あ、……ありがとう」
 久我山さんは戸惑いながらもお礼の言葉を口にした。こういう真面目なところも好きだなと思う。
「でも、なんで、いきなり?」
「いきなりじゃないよ」
 やっぱり僕の想いはまったく届いてなかったんだなあ。
「ずっと告白しようと思ってたんだ。だけど桜庭に先を越されてさー。でも、僕じゃもう久我山さんの一番にはなれないことに気付いちゃった。だからずっと言いたかったんだ」
「そ、そう、なの?」
「うん」
 複雑そうな久我山さんの困惑がかわいらしくて、つい頬がゆるゆるになってしまう。
「でも今の関係も好きなんだ。久我山さんと桜庭がラブラブで、僕はその二人と親友で。うん、悪くない」
 悪くない。本当にそう、思っている。
「ただけじめはつけたかったから、伝えたかったんだ」
「うん……。ありがとう。佐田くんの気持ちは本当に嬉しい。ただ、友達として私も好きだよ」
「わかってるよー。それでいいんだ。ありがとう、久我山さん」
 しんと言葉が途切れて沈黙が訪れる。
「あのさ、ところで久我山さん、今のは桜庭には内緒にしててくれる? あいつをからかうのは楽しいけど、ちょっとさすがに恥ずかしいからさ」
「え、ああ、いいわ。じゃあ、今のことは私と佐田くんの秘密だ」
「うん、そう。二人の秘密」
 顔を見合わせて笑っていると、桜庭が漸く姿を現した。僕は親友に向かって大きく手を振った。
 こちらへ慌てて駆けてくる彼の姿が見えた。



【眼鏡に纏わる三部作】 佐田






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