人気のない路地裏を少し行った所にある小さな事務所。 様子を見張り始めてもうすぐ1時間になるが、どうやら予定通り休業日らしい。 「トキちゃん、こっちは異常なしですっ」 反対側の道の様子を見ていた少女が、ぱたぱたと走り寄ってきた。 「うん、それじゃ行こうか」 はい!と頷く相方の少女と共に、時矢は事務所へと歩き出した。 今回の依頼は、家出人の捜索。 ただの家出ならいいのだが、妙な新興宗教団体に付け回されていたとかで、もしかしたら家出、ではなく拉致監禁の可能性も考えられた。 お偉いさんの娘なら特に。 家出3日目、今のところ身代金の要求もない。 理事長の指示もあり、探偵であることから今回はその事務所へ潜入ということになった。 「誰もいませんっ」 ぴんぽんぴんぽんとインターホンを連打する少女、紅葉。 怪しまれないように普通の来客を装っているが、逆に目立つような気もする。 「しかたない、誰かいるかもしれないから裏口に行ってみようね」 もちろん大嘘。 聞かれても見られても困らないように、あらかじめ用意してきた台詞だ。 裏へと回り込むと、生垣やらで死角になっている。 式神での調査は終えており、周辺に監視カメラのようなものはない。 「…やっぱり鍵がかかってますよ、トキちゃん」 がちゃり、と軽くノブを回してみるが、引っかかったように回らない。 「うーん…とりあえず…」 「とりあえず…?」 「窓を割るか、ドアを蹴破るか、鍵を壊すか、どれがいい?」 にっこりと笑って言う時矢。 「ま…まってくださいトキちゃんっ、ここは私にお任せです!」 慌てて止めに入る紅葉。 長い髪を留めていた黒い1本のピンを取り出すと、ドアノブの鍵穴へと差し込んだ。 「このくらい、探偵なら出来るのが常識です♪」 何度か中を探るようにしていたピンが引っかかり、くるりと回すと同時に小さな音がして鍵の開いたことが判った。 「…キミはまだ探偵じゃなくて女子高生でしょ…」 自慢げに微笑み、中へと入る紅葉の後ろで、時矢は常識とは何かを考えていた。 <暁光学園〜平成陰陽絵巻〜 PC:筧時矢> |
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