指に触れる愛が5題

サモンナイト ~バノッサ~




深い意味は特になかったし、無意識だった。
まぁ、つまりはそれくらい実感が伴っていなかったわけだけど。




定期的にお手伝い(バイト)に行くようになった定食屋さんからの帰り道。
なんでか知らないけど、繁華街でガラの悪いのに絡まれた。
これからご飯でもどう、とか、ちょっとだけでいいから付き合ってよ、とか定番のセリフに始まり、徐々に腕を掴むとかいう実力行使に出始めた彼らのしつこさに、

「私、彼氏いるんで!」

と宣言したところをバノッサに目撃された。
バノッサがこちらに近寄ってきた時には、正直

「助かった!」

としか思っていなかったんだけど。
…………すぐにその考えは打ち消され、なぜかバノッサのこわーい笑顔で詰め寄られることになった(この時点でガラの悪いのは退散済み)

瞬時に家に連れられ。
部屋の中で反省会。

「……で?どーゆー意味だ、さっきのは」

なんで、どうして、こうなってるの?
……Oh〜……とりあえず怖すぎるよ、バノッサさん……。

ビクビク、と怯えていたら、コメカミに青筋を浮かべたバノッサが、予想外のセリフを言った。

「まさか、俺様以外に男がいんのか?あァ?」

………………ん?

「はい?」

言われた言葉が理解できなくて、疑問符をたくさん放つ。

「あァ?そうだろ、『彼氏』ってどういうことだ、コラ」

ものっすごい低い声で不機嫌そうに言うバノッサの言葉を聞き、何度か自分の中で反芻して―――ようやく私は、自分が置かれている状況を理解した。

「……そっか、旦那って言えばよかったんだ。間違えた」

私の言葉に、今度はバノッサが疑問符を浮かべた。
慌てて私はその疑問符に答える。

「いや、私が言った『彼氏』っていうのは……バノッサのつもりだったんだけど」

ポリポリ、と頬をかきながら、

「今は……旦那サンだったね……」

―――今日で、バノッサと結婚して、1週間経ってた。

「なんか、あんまり実感なくてさ、バノッサが旦那さんっていう」

だからつい、彼氏と言っていました。
そう説明すると、

「……それはなんだ、とどのつまり、俺様にケンカ売ってんのか?俺が旦那っぽくねェと?」

と物騒なことをいい始めた。

「ちょ、違うってば、もー……結婚式もやってみんなにお祝いしてもらったし、一応さ、『結婚しましたー』ってお役所?にも行ったし。……なんだけど、ほら、前から同じ家で暮らしてて、劇的に暮らしが変わったわけでもないからさ。なんとなーくまだ、実感がないんだよねー」

「……つまり、どーゆー意味だ」

……目が、完全に据わった。
怖い。

「えーっとえーっと……つまりバノッサと結婚した実感がまだあまり生じてないのであります!」

私は慌てて、言葉をひねり出した。
ガーッ!と勢いに任せて言った言葉に、バノッサは深い溜息で答えた。……ヒィ、それもまた怖い……!

「…………ったく」

バノッサが髪の毛をかきあげて、ドカリッ、と腰を下ろす。
目を閉じて顔を伏せたまま、コイコイ、と手招きをされた。

「……?」

とにかく、そのジェスチャー通りにバノッサに近づき、向かい合わせになるように座る。

と。

バノッサは何を思ったか。

「…………手ェ出せ」

「はい?」

「いいから手ェ出せっつってんだよ」

「はいっ」

言葉通りに、シュバッと両手を差し出す。
バノッサは私の両手を睨みつけるように見る。……どうしよう、これ、手首縛られたりしないよね……?

「……チッ…………はぐれ野郎どもに聞きかじっただけで、モノはまだねェからな」

「???」

小さく何事かを呟いたバノッサは、やや強引に私の左手を取ると。
そっと。

薬指にくちづけをした。

「!?!?!?!?ば、ばばばバノ……!?」

「…………今度、ちゃんと『証』を持ってくる。だから、それまでそいつで持たせろ」

「も、持たせろって……」

「せっかく手に入れたのに『実感がない』なんて言われちゃたまんねェんだよ、こっちは」

バノッサの赤い瞳以上に、自分の顔が赤く染まっていることを自覚する。
それを見たバノッサは、ニヤリと意地悪く口角を上げると、

「覚悟しとけよ。この指も含めて、全部オレ様のモンなんだからよ?」

そう告げると、問答無用で手を引っ張られてベッドに連れ込まれた。
その後は……察していただきたい。

ほんのちょっとだけ後日談を言うと…。

バノッサは数日後に小さなリングを持ってきて、

「……一生涯、薬指にソイツをつけてろ」

珍しく、照れをにじませながらそう言った。

……この俺様帝王は、どうやら私の心臓を破壊する気らしい。



「薬指にくちづけを」

サモンナイト バノッサ


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