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それは大抵、何の前触れもなく訪れる
今回は今後の進軍について話あっていた時だった

「いえ…ですから今は……」
「別に良いだろー?同じ西軍なんだしよ!」

何やら止めようとする者の声と
良いから良いからと意に介す事もなくドタドタと歩いてくる音

誰、何てことは明白

眉を寄せる三成とは対照的に
毛利と刑部は、やれやれまたか…と言った風にぬるくなった茶を啜った
彼の目的が己ではないと知るせいだろう、騒がしい外を気にした様子もなく会話を続ける
もとより話はもう終わる所だった

「で、それで構わぬか大谷」
「無論だ。手堅いのは、われも好みよ」
「ならば話は終わりぞ」
「ヒヒヒ…長曾我部め、今回はいい時節に来た」
「終わるまで待てぬ時点で“いい”とは言うまいよ」

策士として名高い二名が言葉を切ったと同時、襖がスパンと小気味よく開かれる
そして人好きする笑顔を浮かべたまま開口一番に

「よう三成!ちょっと付き合えよ!」

そんな戯れ事を、この男は口にする

「……長曾我部。仮にも軍議の最中に入室許可すら申し出ないとは、どういうつもりだ」

名を呼ばれた手前、返事をしないわけにもいかず
三成は面倒そうとは言え冷静さを保ったまま無礼としか思えぬ所業を指摘した

―――が

「この辺りじゃ、なかなか釣れねえ魚が釣れたんだ!あんたに食わしてやりたくってよ!」
「いらん!何かと思えば、そんなものの為に来たのか……!」
「新鮮なうちの刺身が旨いんだぜ!」
「貴様、少しは人の話を聞け!!」

すぐにでも二人の会話は口喧嘩地味た言い合いに発展する
とは言え喧嘩腰なのは三成だけで、それも彼の不機嫌さに拍車をかけていた

腹立たしさを隠した事などないのに、この男は一度とて動じたことはない
他の者のように遠慮も、敬遠もせず
まるで当然の事のように
他の誰でもなく自分を引っ張り出す

付き合い方が分からない、うっとおしい事この上ない

だと言うのに

「ほら来いって、三成!!」

長曾我部の声で名前を呼ばれれば
「……ッッ」

何故か、否…と強く言えずに口ごもるはめになる

理由なんて知らない、知りたくもない
ぐらりと揺らぐ心を見ないふりして拒絶しようと思ったのに

「安心するといい長曾我部、必要な話なら今しがた終わった所よ」
「な…ッ!?毛利、貴様…!!」

何のこともないように毛利は笑った
好意…と言うより、嫌がらせでしかないだろう愉快そうな笑みに思わず食ってかかろうとしたが

「お、そりゃあ良かった。じゃあ行こうぜ三成!」

長曾我部に首に手を回され、それも叶わない
「だッ…誰が行くと言った!?放せ!」
「遠慮すんなって!」
「してない!いっそ貴様が少しは遠慮しろ!!」
「はっは!そりゃあ海賊には無理な相談ってヤツだなあ」
「ふざけるな…!」

どうしてコイツはこう
いつもいつも唐突で、無遠慮で、人の話を聞かない

腕を振り払おうにも常日頃巨大な碇槍を振り回す長曾我部に敵うわけもなく
抵抗をし続けるのが馬鹿馬鹿しい気すらしてくる

三成は溜め息を吐き引きはがそうとしいた手から、力を抜いた
うっとうしいとは思うが
別に……長曾我部と共にいるのが嫌なわけではない
ただ素直に付いて行くのが癪に触るだけなのだ

「……ん?」
力を抜いたのが長曾我部にも分かったんだろう
「よし!じゃあ行こうぜ、三成!!」
後ろから首に腕を回されているから顔は見えなかったが、ひどく嬉しそうに己の名を呼んだ

だからだろう

「んじゃな、大谷に毛利!」

刑部と毛利を呼ぶ長曾我部の言葉に意識を止めたのは





「……長曾我部」
「おう、どうしたよ?」
半ば引きずられるようになりながら部屋を出て、しばらく
肩を並べ歩きながら三成はそれ問うてみた

「何故、名を呼ばない?」
「はあ…?呼んでるだろ、三成って」
「私の事ではない。刑部と毛利の事だ、何故名を呼ばない?」

よくよく考えれば不思議だった
元から知り合いらしい孫市を聞き馴染みのない「サヤカ」と呼ぶのは良いとして
同盟を組んで初めて仲間となった己と刑部の内
何故、己だけ名を呼ばれるのか
毛利にいたっては
噂でしか知らないが遥かに長い付き合いであるのだろうに

「……大谷と毛利をか?」
少しばかり気の進まなさそうな顔を長曾我部がするものだから、余計に三成には意味が分からなかった
「どうした?」
「あー…いや、何っつーか……あの2人は…名前で呼ぶのは…少しなあ」

どちらにしろ命が危うそうな気がする。だの
わざわざ呼ばなくても。だの
腕を組み、ブツブツと言い訳地味た独り言を繰り替えす長曾我部に三成はならばと更に問うた

「なら何故、私の名を呼ぶ」

最初は石田と呼んでいたはずだが、早々に彼は名前を呼ぶようになった
呼び名など気にした事などなかったから
あえて咎めもしなかったけれど

質問のないようが気に入ったのか、それともそれなら答えは分かっているのか
長曾我部は先程とは打って変わり楽しげに笑う
「ああ、そりゃあ……いや、そうだな―――」
だが良いことを思いついたとばかりに言葉を切り
立ち止まり顔を覗きこんできた

海色の隻眼は自分に向けられるにしては穏やかで温かくて……何時も落ち着かない気持ちにさせられる

「な、何だ……」
「俺の名前を呼んでみろよ、分かるかも知れねえぜ?」
「……?分かるものか、貴様の名を呼んで何故……」
「いいから」
「…………」

名前を呼ぶ。
単純で簡単な事、それで何が分かるというのか
そんなもの幾らでも呼んでやると息を吸い込み口を開いた

「も………」

なのに息が喉の奥につまる

「も、と……」

どうにか言葉のカタチをなそうにも、言葉の紡ぎ方を忘れたかのように口が上手く動かない
見下ろしてくる長曾我部を見ていられずに俯いた

何故呼べない?長曾我部と呼ぶ事と何が違う?
自問しても答えは出ない、ただ意味も分からないままに顔が熱い

「三成ー?知らねえとか言わないよなー?元親だぞ、もーとーちーかー」
「う…うるさい…!!分かっている!」

陽気な長曾我部の声が気に触る
さっさと呼んでやれば良い、そうして貴様の言いたい事の意味など分からないと言ってやれば良い

何度も何度も呼ぼうとして、そのたびに躊躇って

「………ッッ―…べるか……」
やがて三成は俯いたまま低く唸った
その顔は微かに赤い

「…えーと、三成?何言って―――」
「そんなもの呼べるものか!!!もう勝手にしろ長曾我部ッ!!!!」
「ぐはっ…!!?」

思い切り鳩尾に一撃をくれてやり
長曾我部から逃げるように三成はその場を立ち去った、いや正確には逃げたのだ
理由の分からない動悸と、動揺と、緊張から

そうして

「何が、名前を呼べば、分かる、だ」

珍しく息が切れるほどに走って
息を整えようと座り込みながら不平を漏らす

「結局は…分からない事が増えただけだ」

果たしてそれが答えなのだと、今の彼が気付くはずもなかった



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