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以下は『the Pure Grim Reaper』の番外です。
今回は四章終了後の話で、みんなで料理を作るお話です☆
全3話。







〜番外編『料理下手‐1』〜






「じゃあ、皆の夕食頼んだぞ、志紀」


「ロンさんほどのモノはできないと思いますけど、精一杯頑張ります」


いつものジーパン姿とは違い、質の良いダークスーツを着こなすロンの言葉に志紀はうなずいた。
実は今夜、ロンが不在にするということで、志紀が全員分の料理を作ることになったのだ。


なぜ志紀に白羽の矢が立ったのか。
実は、彼女はここに来る前、両親共働きの家で過ごしていたため、自分で食事を作ることが多かったのだ。
それに、料理は結構好きで、前の学校ではお弁当もこまめに作っていた。


「じゃあ、頼んだぜ。」


そう言っていつもの快活な笑顔を浮かべたロンは、食堂から出ていった。
彼が出発したのを見届けると、志紀は軽く腕捲りをする。


久々の料理だ。ここに来てからは、毎日ロンに作ってもらったものを食べていたから。
ロンの作った物は驚くほど美味しい。
あの大きくて粗野そうな手から、あれほど素晴らしい料理ができる様子は見ていて飽きない。


だから、ずっと自分で作る機会がなかったのだ。しばらくやっていないと不安は残る。
しかも、今回は自分の分だけでなく、全員分作らなければならない。
それは大きなプレッシャーであると同時に、やる気にも繋がった。


志紀は自前のエプロンを付けると、気を引きしめた。


「よし、頑張るぞ!」


今夜のメニューはタケノコご飯と、ワカメとなめこのお味噌汁、
それに人参と椎茸の煮物に鯵の味噌煮、茶碗蒸しを作る予定だった。


志紀はもともと和食が好きで、自分が作る時は和食もよく作っていたのだ。
確かにここにはイヴァやラウルのような異国の人も多いが、
ロンが健康面を考慮して日本食を作ることも多いので、心配ないだろう。


それに……。気付かぬうちに志紀はふわっと微笑んでいた。
彼はよく和食を好んで食べている。今日作ったものは彼にも食べてもらえるはずだ。
右京はよく自分で食事を作って食べているが、和食の時は皆と同じように食べるのだ。


どうせなら喜んでほしい。
まあ彼のことだから素直に美味しいなんて言ってくれるわけではないけど、それでも。


そこまで考えて、志紀は思わず苦笑していた。
まったく、面倒な人を好きになってしまったものだ。
しかし、どう足掻いたとしても、この気持ちは変えられない。
報われなくても、彼が彼らしくいてくれるのならば、それ以上は何も望まない。


だから、これでいいのだ。


そんなことを考えながら、志紀は料理を始めた。
まずはタケノコご飯をセットして、そのあと煮物を作ろう。
志紀はタケノコを切ろうと包丁を手に取った。


その時、食堂の扉がガチャっと音を立てて開いた。
音に驚いて振り返った志紀の視界に、意外な人物の姿が映る。


「古都!?」


何故かいつもの独特な制服の上に割烹着を着込んだ古都は、
志紀を見てはにかんだような笑みを浮かべた。


「我にも手伝うことはないか、志紀」


そう言ってくれる古都が嬉しくて。志紀は思わず微笑んでいた。


「うん、お願い」


志紀の言葉に、古都の顔がパアッと輝いた。そして嬉しそうに台所に入ってくる。
しかし、台所の前に立った瞬間、彼女は申し訳なさそうに顔を歪めた。


「といっても、我は料理を作ったことがない。いつも聖兄が作ってくれていたから」


古都の姉弟子・琉聖雅は、数日前に無事保護され、今は念のため安静にしている。
そんな彼女のことが心配なのだろう。
大切な姉弟子のために何かをしたいという古都の想いに、志紀は微笑みを漏らした。


「大丈夫大丈夫、教えてあげるよ。美味しいもの沢山作って、聖雅先輩に喜んでもらおう」


志紀がそういうと、古都は幼子のように無垢な笑顔になった。
古都のこういう所は本当にかわいい。その笑顔に志紀のやる気も更に増した。
せっかくの機会だ。二人でおもいっきり楽しんでしまおう。
そう考えた志紀は、今日の作業の行程を頭の中に描く。


まずは野菜を切ってもらおう。
古都は彫刻を趣味としているから、刃物の扱いには慣れているはずだ。
刃物さえうまく扱えれば、切るのはさほど難しくないだろう。


そして人参を取り出すとサッと皮を剥き、半分はブロック切りに、半分は花形に切った。
その他の野菜も同じように例として少しずつ切っていく。そして古都に包丁と野菜を渡した。


「これと同じように野菜を切ってくれる?」


「うむ、承知した。して志紀、これは一体何になるのだ?」


「ああ、これ?」


そういえば、彼女にはまだ今日のメニューを告げていなかった。
志紀は手書きのレシピを取り出すと、そこに貼ってある写真を見せた。


「これは煮物になって、こっちのタケノコはタケノコご飯になるんだよ。
両方とも聖雅先輩好きだったはずだし、きっと喜んでくれるよ」


「本当か!」


古都の顔がパアッと輝く。やはり聖雅のことが気になって気になって仕方がないのだろう。
志紀はそんな無邪気な古都に満面の笑みを返して頷いた。
その時、もう一人このメニューが好きな人物を思い出す。


「そういえば、両方とも陽くんも好きだったな。あの二人、味覚は結構似てるみたいでね……」


突然、何かが落ちた音が志紀の耳を突いた。
驚いた志紀が振り返るとそこには持っていたタケノコを落とした古都の姿があった。


「こ、古都!? 大丈夫?」


「な、何でもないっ! だ、大丈夫だ、うん。さて、早く切らねばならないな」


そう早口でまくし立てた古都は、包丁を持ってまな板に向かった。
その耳は心なしか赤くなっていた。


最近、古都と陽の様子が少しおかしい気がする。
志紀の気のせいかもしれないが、古都は陽を避けているし、
陽は以前より更に彼女に優しくなった気がする。だけど、古都に聞くのも躊躇われて。
気にはなるが、もう少し確信を持ってからにしよう。だいたい、今はそんな時間はないのだ。


そうしている間にも、古都は包丁を握ると最初はあまり慣れない様子で、
そのうち慣れてきてサクサクと切っていく。
うん、大丈夫そうだ。そう判断した志紀は次の作業に取りかかろうとした。


その時、またしても扉がガチャッと開く。そしてそこにいた人物に、志紀は思わず息を呑んだ。













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