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エースで4番
(P4/主花主)

 

「それはなんですか、月森センセイ」
「金属バットという野球の道具ですよ、花村くん」
 うっかり敬語で訊いたら、粛々と敬語で返された。
「それでセンセイはその野球の道具で何する気」
「シャドウぶっ叩く気」
「野球じゃねえじゃん!」
 ジュネス家電売り場、おなじみ薄型大型テレビの前に金属バットを肩に担いで片手をズボンのポッケに突っ込んでなんとなくモデル立ちの学ラン姿。物騒。ただひたすらにマックスで物騒。
 いつものように探索に向かう直前、あ、と月森がめずらしく間の抜けた声を上げた。めずらしさの二乗で迂闊にも武器を忘れてきたと言うので、ほかのみんなは先に入口広場に行かせて花村だけ外で待っていてやればこの始末だ。
 新しい武器を手に入れたんだ、といそいそ金属バットを出してくるとは思わないだろう普通。一介のヤンキーじゃあるまいし。テレビの中では常に銃刀法違反の猛者でしょうがあなた。
 なぜ月森の行動は常に予想の斜め上なのだろう、限りなくいやな方向に。完二の八高デスクよりよっぽどびびったわ! と花村は顔を引きつらせる。完二に八高デスクはそこそこ許容範囲内だが、月森に金属バットは未知の領域なのだ。つまりとてもこわい。
 月森は九回裏一発サヨナラのシーンでバッターボックスに送り込まれた代打者みたいな闘志あふれる面持ちでバットを構えると、マウンドのピッチャーを見据える様まで演じて見せてから、鋭い風音とともに空気を切り裂くフルスイングを披露した。やめて、ここまだジュネス店内だからマジやめて。
 花村は野球には詳しくないしさして興味もないので自信はないが、いまの月森のスイングは某日本人メジャーリーガーのフォームによく似ていた気がする。つまりすごくいいスイング? 月森お前は野球部に入るべきだったんじゃないのか、そうすればいまみたいに一条に世界の果てを見た(そして絶望)みたいな遠い目をさせることもなかったろうに。「謙遜してんのかと思ったら本気で初心者でさ……しかもマジ身長の無駄遣いやめてっつーレベルのセンスのなさでさ……」
 ふたたび仮想ピッチャー(たぶん通路の向こうに見える大型冷蔵庫)相手にホームラン予告じみた真似をし始めた月森から無理やりバットを奪い取ったら、親の敵みたいな目で睨まれた。
「店内でバットを振り回すな! あと野球以外のことに使っちゃだめ!」
「俺のはじめての武器は花村くんがくれたゴルフの道具でした」
「返す言葉がねえな!」
 花村がやけくそ気味に高笑いしていると、厳かかつ力強く月森に両肩をつかまれ、真正面から凝視された。ちょ、近い! 引き寄せようとするなもう十分近い近い近いです!
「花村、俺は里中に憧れている」
「はあ!?」
「オッケーオッケー、ドーン!」
「はああ!?」
「俺もこのバットでシャドウを場外ホームラ」
 目をキラキラさせてバットを奪い返そうとする月森を、花村はとりあえずテレビの中に蹴り込んだ。

 

(2009.8.24)

 




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