「何でもありませんよ」

 そう言って笑う事にも、流石に慣れた。
笑顔で取り繕う事にも、然程苦労を感じなくなった。
 だって、これは仕方がない。

「………。」

 対照的に、彼は眉間の皺を深くしたまま睨み付ける様に此方を見ている。
 彼は此方とは違って、感情に素直だ。
 不機嫌さに関しては、特に。

「どうしました?」

 そんな上辺だけの言葉も、口をついて出る様になった。
 本心とは別に、もう一人の自分が話している様な感覚。
 彼はそんな白々しい此方の態度に、ますます不機嫌さを増していく。

「……分からないのか?」

 自分に分かるのは、世界を動かす力を持つ少女の心だけ。
 それが、与えられた力と役割。
 そのまま固着してしまった様な笑みと共に、沈黙を保つ。
 この目には、不機嫌に歪められた彼の表情しか映らない。
 目に映る、それが全て。

「……なら、好きにしろ」

 そう言い置いて、彼は此方に背中を向ける。
 去っていく背中を、ただじっと見つめる事しか自分には出来なくて。
 やがてはがれ落ちた笑みに、ただ空しさが残った。

 だって、これは仕方がない。
 自分に分かるのは、世界を動かす力を持つ少女の心だけ。
 それが、与えられた力と役割。


「………分からないんです」


 きつく寄せられた眉の意味も、僅かに震えていた肩の意味も。
 貴方に逢うまでは、それが苦痛だなんて分からなくなっていたのに。
 ただ一つ、笑い続ける事よりも、心を曝け出せない事よりも、痛い。





 貴方の悲鳴は、聞こえない。


+++++++++++++++++++++

http://kokoko.ifdef.jp/
ハテナイ/5の題


>>>聞こえない悲鳴



拍手ありがとうございますv
励みになります!



何かございましたらどうぞ!(拍手だけでも送れます)
お名前 URL
メッセージ
あと1000文字。お名前、URLは未記入可。